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成人看護学では,「成人とは何か」を明確に打ち出す方針のもとに,既存のテキストとはひと味違う看護学の教科書を目指し,編集担当者3名が何度も白熱した議論を繰り返し,構成を考えた.改訂にあたっては,『健康危機状況』と『セルフケアの再獲得』を合本とし,『成人看護学概論』と『セルフマネジメント』の3分冊とした. 本書『セルフマネジメント』は,成人が何らかの慢性的な病やまいをもったときに,生活者としてどのように病気と家庭生活,社会生活の折り合いをつけて,自分らしく生きていくかをテーマとしている.セルフマネジメントの基本的な考え方は,糖尿病患者教育を専門としている編者が,看護師を対象とした研修会等で繰り返し講演し精練してきたものである.クライアントと医療者のパートナーシップに基づいた共同ケアを行うことがセルフマネジメントの鍵になることを,理論(第1部),看護方法(第2部),看護の実際(第3部:事例)を通してわかりやすく学ぶことを目指した. 第1部では,セルフマネジメントとは何かについて説明した後に,セルフマネジメントを支える諸理論について概説した.セルフマネジメント支援をしていくためには,成人であるクライアントがもっている力をいかに引き出していくかが鍵となっているため,実践に活かせる理論として「成人教育学」「エンパワメントモデル」「自己効力理論」「コミュニケーション理論」に焦点を当てた. 次に第2部では,セルフマネジメントを推進する看護方法について,「対象理解」「援助方法」「評価のしかた」に分けて説明した.慢性の病をもったクライアントに対する看護において,看護者は専門知識・技術を提供し,クライアントは症状(体験,自覚)やセルフモニタリングの情報を提供するという相互交流を通して,パートナーシップ関係を成長させていく.そうした看護者との関係を通し,クライアントはシンプトン・マネジメント(自分の症状と生活のなかで折り合いをつけて付き合っていく方法)とサイン・マネジメント(客観的に測定,観察できるデータや徴候の意味をアセスメントし,対処する方法)を身に付けていく.さらに,病気をもつことに伴うさまざまなストレスに対処するストレス・マネジメントの力を身に付けていく.従来の医学モデルでは,医療者が必要だと判断した知識・技術を教えるという構図であったため教育内容に重点が置かれていたのに対し,セルフマネジメントモデルにおいては,クライアントの「患者力」とでもいうような力をどのように引き出し強化していくかが重要であるために,教育方法はじめに
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