308010112
13/16

て,次第に関節の腫しゅ脹ちょうや疼とう痛つうを来す.これを繰り返すうちに関節の変形や拘こう縮しゅくが生じ,関節の運動域が制限される.また,骨膜下の出血により骨腫しゅ瘍ように類似の所見を呈する他,偽関節の形成や骨折などが生じることもある.●筋肉内出血● 筋肉内出血は疼痛を伴うことが多く,運動障害を生じる.特に腸腰筋の出血では特徴的な股関節の屈曲位をとり大腿神経圧迫症状を来すこともある.●その他の出血●  生命の危険がある出血として,頭蓋内出血,腹腔内出血や頸部出血などが挙げられる. 頭蓋内出血は頭痛,嘔吐,痙けい攣れんおよび意識障害などの症状を伴い,CT検査やMRI検査で診断を行う.腹腔内出血は軽度の腹部打撲で生じ,徐々に進展し貧血を来す.腹部に皮下出血がみられる場合は腹腔内出血を疑い,腹部エコー検査やMRI検査を行う必要がある. 頸部出血は,周囲が軟部組織のため進展しやすい.血腫の形成により気道が閉塞されて窒息を生じることがあるため,十分な注意が必要である.(2)検査所見 血友病と疑われる出血症状がみられた場合,血小板数の算定とともにプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT),フィブリノゲン,フィブリノゲン/フィブリン分解産物(FDP)の凝固スクリーニング検査を行う.APTTの明らかな延長がみられ,その他の検査結果が正常である場合,血友病の可能性が考えられる.さらに,第Ⅷ因子ならびに第Ⅸ因子凝固活性の定量を行い,第Ⅷ因子が低下していれば血友病A,第Ⅸ因子が低下していれば血友病Bが考えられる. 中高年の人でこのような検査結果が出た場合には,第Ⅷ因子あるいは第Ⅸ因子に対する凝固インヒビターの存在が疑われるため,交差混合試験による鑑別の必要がある.患者の血けっ漿しょうに正常血漿を加えてAPTTを測定し,APTTの延長が補正されれば血友病による第Ⅷ因子ないしは第Ⅸ因子の低下,補正されなければインヒビターによる凝固活性の低下と判断する.(3)治 療 血友病患者の出血時の治療の原則は,不足している凝固因子の補充療法である.血友病Aに対しては第Ⅷ因子製剤の輸注を,血友病Bに対しては第Ⅸ因子製剤あるいは第Ⅸ因子複合体製剤(第Ⅸ因子に加えて第Ⅱ,第Ⅶ,第Ⅹ因子を含む)の輸注を行う(表1.1-1). 従来は,献血から得られた血漿由来の凝固因子製剤がほとんどであったが,最近はプロトロンビン時間(PT)外因系凝固のスクリーニング検査で,血漿にCaと組織トロンボプラスチンを加えてからフィブリンが生成されるまでの時間.健常者では約10~12秒だが, 第Ⅶ・Ⅹ・Ⅴ・Ⅱ因子およびフィブリノゲンの低下で延長する.活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)内因系凝固のスクリーニング検査で,血漿に活性化剤を添加した後,Caとリン脂質を加えてからフィブリンが生成されるまでの時間.健常者では約26~38秒だが,第Ⅻ・Ⅺ・Ⅸ・Ⅷ・Ⅹ・Ⅴ・Ⅱ因子およびフィブリノゲンの低下で延長する.血友病の遺伝子診断第Ⅷ因子や第Ⅸ因子の遺伝子構造は,すでに明らかになっている.これを利用して血友病保因者の診断や出生前診断を目的として遺伝子診断が行われる.凝固インヒビター凝固因子に対する自己抗体が生じて出血傾向を呈することがあり,これを凝固インヒビターまたは循環抗凝血素と呼ぶ.後天性血友病とも称される.表1.1-1●凝固因子製剤の投与量血友病A第Ⅷ因子製剤の必要投与量(単位)=体重(kg)×目標止血因子レベル(%)*×0.5(体重1kgにつき1単位の製剤を注射すると凝固因子濃度は約2%上昇する)血友病B第Ⅸ因子製剤の必要投与量(単位)=体重(kg)×目標止血因子レベル(%)×1(体重1kgにつき1単位の製剤を注射すると凝固因子濃度は約1%上昇する)*目標止血因子レベル(%)は軽度関節内出血では20〜40%,中等度関節内出血では40〜80%,口腔内出血では20〜40%などさまざまである.131血液・造血器疾患

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る