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リコンビナント製剤も同様に用いられている.一般的には,軽度の出血に対しては凝固因子レベルを正常の20〜30%,重症の出血に対しては30〜50%程度に上昇させるように製剤の投与を行う. 補充療法の問題点としては,B型肝炎やC型肝炎およびHIVなどの感染と,凝固因子に対するインヒビター(凝固因子を阻害する抗体)の出現がある.前者については,純化精製法やウイルス不活化法の改善,さらにリコンビナント製剤の導入により,感染の危険性は低くなっている.また,インヒビターの産生は臨床上大きな問題であり,近年ではステロイド薬の投与の他に,第Ⅷ因子をバイパスして凝固反応を進ませる活性型第Ⅸ因子複合体製剤や,活性型第Ⅶ因子製剤などが治療に使われている. 関節の腫脹や疼痛が認められたときには関節内出血を疑い,凝固因子製剤を早めに投与する.腫脹や疼痛の前に,関節にムズムズ感やひっかかりなどの違和感を感じる場合もある. 凝固因子製剤を家庭などで医療者の手を借りずに輸注することを家庭療法といい,成人では自己注射が行われる.患者・家族が家庭注射を希望している,出血が頻回に認められ後遺症が増強する恐れがある,頻回の通院のため学業などに支障を来す,医師の指示事項を忠実に実行できるなどの条件を満たした場合に行われる.導入前に,手の消毒,注射針の無菌操作,凝固因子製剤の保管・溶解方法,注射後の注意などを十分に説明する.出血の前兆があるとき,あるいは疑われるときは,ためらわず注射を行い,その後受診して指示を受けるよう指導する. 保育園・幼稚園や小学校の担任や養護教員には病気の状態を話しておき,遠足・運動会・修学旅行などでは事前に綿密な打ち合わせをしておく.乳幼児期では,けがをしないよう階段に注意し,車では後部座席に座らせる,危険な玩具はそばに置かないなどの注意が必要である. 3ナーシングチェックポイント11)尾崎由基男.“血友病”.わかりやすい内科学.第3版.井村裕夫編.文光堂,2008.2)嶋緑倫.血友病A.血液フロンティア.2001,11(9),p.1081-1092.3)柳田正光ほか.血友病B.血液フロンティア.2001,11(9),p.1093-1101.4)鈴木重統ほか編.止血・血栓ハンドブック.西村書店,2015.5)日本血液学会編.血液専門医テキスト.改訂第2版.南江堂,2015.引用・参考文献1凝固インヒビターリコンビナント製剤重要用語補充療法補充療法は,出血の発現リスクが高い場合に実施するオンデマンド予防的補充療法と,継続して投与する定期補充療法に分けられる.定期補充療法ではトラフ値(最低値)を>1%にすることが必要で,通常30〜40単位/kg/回,週2〜3回投与する.最近,早期定期補充療法が血友病性関節症の発症と進行を防ぐことが明らかになっている.リコンビナント遺伝子組み換え型のこと.ヒトDNAを他の細胞に組み込み,ヒトのサイトカインや凝固因子などをつくらせる.14
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