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また,医療分野における情報化は電子カルテ,オーダリングシステム,患者確認照合システム等に代表されるように急速に進んでいる.医療の情報化には医療従事者の業務の効率化や患者情報の迅速な共有化などのメリットが多々あるが,その一方で情報化に伴う医療事故も発生している.例えば,オーダリングシステムに入力する薬剤名や投与量などの入力ミスによる誤薬や過剰投与,薬剤の中止・変更の誤りによる二重投与などの事故である.誤入力を防ぐシステムの開発が進められてはいるが,情報システムの成し得る対策は,入力ミスなどのエラーを防止するための支援と業務の効率化である. 医療事故防止のための砦とりでとなるのは,投薬を例に挙げれば,処方箋を書く医師,処方箋に従って薬剤をピックアップし処方する薬剤師,指示書に従って正しい薬剤を正しい患者に投与する看護師である.特に看護師は,投薬の最終的な実行者であるため,指示受け段階での指示の正しい理解と疑義照会の判断,準備段階での薬剤の知識と患者情報とを統合しての投与の可否の判断,実施段階での患者の状態のアセスメントを自律的に実施する責務がある.これらの責務は,情報化の進展にかかわらず存在し続けることを認識しておく必要がある.(4)医療機器・機材,医薬品の開発と医療安全 医療機器・機材の機能が高度化し,その種類も増えている.高度な医療が提供できる反面,医療機器の取り扱いが難しくなり,機器・機材ごとに操作方法が異なるため,作業者が混乱して事故につながる可能性も高くなっている. 医療機器や機材は,さまざまな企業が独自に開発するのが一般的であるため,医療安全対策も各企業独自に行われていた.しかし,単独の企業努力では解決できない医療事故が多発したため,近年では企業間の情報や技術の共有化も進んでいる.例えば,①輸液ラインと経腸栄養ラインの誤接続防止対策,②人工呼吸器の事故対策,③ジャクソンリースと気管切開チューブの誤接続防止対策,④輸液ポンプやシリンジポンプの事故防止対策,が代表的な例である. ①の防止対策は,本来なら経腸栄養ラインから投与されるべき薬剤が,誤って三方活栓から輸液ラインに投与され,患者が亡くなるという事故が多発したために講じられた.事故の原因には,接続部分に輸液ラインと経腸ラインで同一の規格が使われていたことが大きく関与したと考えられており,この事故をきっかけに国内外の企業が集まり,対応策が検討された.その結果,輸液ラインと栄養ラインを物理的に接合できないサイズ(見た目にも明らかに違うサイズ)にし,各社の製品の互換性を持たせることとなった.さらに,国内だけの基準では輸入品との間で誤接続が起きる可能性があるため,国際基準化への努力も続けられている. また,注射針,留置針およびカテーテルなどは,外径を色によって識別しているが,2007(平成19)年4月から,色を表すカラーコードが国際標準化機構規格(ISO規格)に切り替えられた. 医薬品でも,医療事故につながりやすい要因が数多く知られている.名称や包装,容器の色や形,表示方法が似ているため医療者が取り違え,医薬品の保管や投与方法を誤るなどの事故が多発している.医薬品の取り扱いには,医師,薬剤師,看護師なオーダリングシステム病院の医師・看護師が検査や投薬・注射などの指示(オーダー)を電子的に関係部局に伝達するシステム.これにより診療から医事会計にかかわる処理・業務を迅速化することができる.情報公開制度情報公開法に基づき,誰もが行政機関や独立行政法人等が保有している文書の開示を求めることができる制度.情報開示2003(平成15)年5月に「個人情報保護法」が成立し,同法を根拠として生存個人の請求による診療録の開示請求ができるようになった.ただし,第三者の不利益,または患者の心身の状況を著しく損なう恐れのある場合は非開示とすることができる.個人情報保護法個人情報の有用性に配慮し,個人の権利や利益を保護することを目的に定められた.これにより,事業者による個人情報の取り扱いに不安を感じたような場合,自分に関する情報の開示や訂正,利用停止などを,その事業者に求めることができる.レセプト診療報酬明細書および調剤報酬明細書のこと.14
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