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どの複数の職種が関与するため,伝達ミスによる事故が発生しやすいという特徴もある.例えば,アルマール錠(血圧降下薬,2012(平成24)年にアロチノロール錠に名称変更)とアマリール錠(血糖降下薬)である.商品名が似ていたことから医師がコンピュータ入力の際に打ち間違えたり,薬剤師が処方箋を読み間違えて患者に誤って処方するケースが相次いだ.このような医療事故を防止するため,厚生労働省では新規に承認する医薬品の名称の類似を防ぐための対策を講じている.また,内服薬処方箋の記載方法について,2010(平成22)年1月に薬名,分量,用法,用量の記載方法の標準化を示し,情報伝達エラーを防止するための取り組みを推進している. 医療者は,医療機器・機材,医薬品の利用者として,より利便性と安全性の高い製品の開発に寄与するという意識を持つ必要があると同時に,新しい製品の利用にあたっては,取扱説明書をよく読み,正しい使用方法を修得する必要がある.(5)チーム医療と医療安全 近年の医学・医療技術は急速に高度化し,専門分化が進んでいる.また,日本の人口構造や疾病構造も急速に変化しており,社会の医療に対するニーズが複雑・多様化している.これらの変化に対応するためには,多職種の医療専門職がチームを組んで協働するチーム医療の推進が欠かせない.チーム医療とは,「医療に従事する多種多様な医療スタッフが,各々の高い専門性を前提に,目的と情報を共有し,業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い,患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」(厚生労働省,2010)と定義されている4). チームで作業をすることで生じる事故の要因としては,役割分担の不明確さ,責任の所在の曖あい昧まいさ,方針の不統一,思い違いや伝達の誤り,自己検出機能の低下(自分自身の誤りを自分で気付けなくなること)などがある.これらの要因への対応は,各専門職が,その職務を遂行する上で必要となる専門的な知識や技術を修得することだけでは難しい.近年では,チームワークを高め,医療の質と安全性の向上をめざす一つの方法として,チームステップス(Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety:Team STEPPS)が提案されている.チームステップスとは, 「医療の成果と患者の安全を高めるためにチームで取り組む戦略と方法」と訳され5),米国国防総省や航空業界などの事故対策エビデンスを基もとに,医療研究・品質調査機構(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)と米国国防総省が作成した,良好なチームワークを形成して医療事故を減少させる行動ツールである. チームステップスは新しい取り組みであり,現場での普及はこれから急速に進むと思われる.このような新しい医療安全対策の動きに対応していくのも,今後の医療安全を担う看護師に求められる姿勢である.(1)患者の安全(PatientSafety) かつての医療安全は,病院が抱えるリスクを減らすこと,特に訴訟による評判や労働災害,セクシュアルハラスメントなどによる損失をいかに減らすかに目が向いていた.しかし今日では,患者へのリスク低減を含めた考え方へと変化してきている.前 3医療安全の対象増加する事故発生要因チーム医療の進展,地域医療連携の進展,医療機器の高度化・複雑化,新しい医薬品の開発,医療情報システムの進展とその切り替え,患者の高齢化などの事故発生要因が日々,増え続けている.ジャクソンリース傷病者の口と鼻に空気を送り込む人工呼吸器具(Bag valve mask:BVM)の一つ.気道内圧調整能を有するタイプを指す.疑義照会医師の処方箋に疑問や不明点がある際,薬剤師や看護師が処方医に問い合わせて確認すること.三方活栓静脈麻酔や輸液療法,点滴を行う際,薬液の流路を調整するために使用するコックのこと.151医療安全と看護の理念
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