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(1)医療事故は避けられない 今日の医療の現場では,さまざまな職種の医療従事者がチームとなって働き,発展し続ける医療技術・機器や医薬品を駆使して,高齢化・重症化が進む患者に医療を提供している.このような複雑な環境下では,医療従事者間や患者−医療従事者間でのコミュニケーションの行き違い,機器の操作ミス,医薬品の誤用など,本来あるべき姿から外れた不安全な事態や行為が起こりやすいことが容易に想像できる. 日本の病院でどの程度の有害事象が発生しているかを調査した報告書1)によると,入院中の有害事象の発生率は6.0%であり,そのうち予防できた可能性が高いと判断された事象は23.2%だった.この報告書でいう有害事象とは,一般でいわれる医療事故に限らず,患者にとって不利益が生じたものすべてを指している.同様の研究は諸外国でも行われており,ほぼ同じ発生率であることが明らかになっている.医療行為自体が人,それも健康障害のある人の身体に侵襲を加える行為であることから,望まない副作用や合併症などがある程度の頻度で発生することは避けられない.予防できる事故を防ぎ,人々の医療への期待と信頼を裏切らないようにしなければならない.(2)利用者(患者)の立場で医療を考える 自分自身を医療従事者ではなく,医療の利用者(患者)の立場に置いて考えてみよう.健康上の不安や苦痛を抱えて医療機関を訪れる利用者は,まずは受診によって安心感を得たい,苦痛から解き放たれたい,今の状態が今後どうなるかの見通しを得たいと考えるだろう.さらに,受診では医療従事者から親切で丁寧な対応を受けたい,病状や治療についてわかりやすい説明を聞いて納得のいく治療を受けたいと願うだろう.医療の利用者は,質の良い医療を受けたいと願っているのである. 米国医療の質委員会/医学研究所が1999年に発表した,医療現場の事故の実態とその防止策に関する報告書“To Err is Human”(人は誰でも間違える)は,それまで医療機関の中でひそかに扱われていた医療事故の実態を世の中に示し,衝撃を与えた.医療事故による死亡者数が,交通事故による死亡者数を上回っていることを明らかにしている.この報告書では,医療の質の側面として,安全,タイムリー,有効,効率性,公平,患者中心の6点を挙げている.医療安全に取り組むことは,単に事故が生じないようにすることを超えた,医療の質を保証するための重要な仕事だといえる. 看護師は,医療行為の最終の実行者となることが多く,患者の最も近くにいる医療職であるため,医療事故の当事者になる頻度が他の医療者より高い.このような現状を知ると,看護職に就くことをためらう気持ちが生じるかもしれない.しかし,幸いなことに医療安全を守るための知識や技術は集積されてきている.これからの医療を担う看護学生は,医療安全に関する最新の知識・技術を学び,主体的に安全を守るすべを習得していってほしい. 1医療安全の意味と重要性 1なぜ医療安全を学ぶのか12

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