●患者自身も医療安全の担い手である● 医療安全においても,患者と医療従事者が共に取り組むことによって,より安全で質の高い医療が確保されるという考え方に変化してきている.厚生労働省の医療安全対策検討会議による「医療安全推進総合対策〜医療事故を未然に防止するために〜」(2002年)では,患者に期待される役割として「患者は,医療を受ける主体であり(中略)医療に主体的に参加していくことが求められている.患者もまた医療安全の確保に貢献することが期待される」と述べられている.(3)医療情報と医療安全 前述した手術患者取り違えなどの医療事故はセンセーショナルに報道され,国民の医療に対する信頼を損ねるきっかけとなった.マスメディアは,まるでこれらの事故後に医療事故が多発したかのように報じたが,実際には,医療の現場では似たような事故は以前から発生していた.それまでは医療事故が発生しても,医療機関内で処理され,一般の人々には知られていなかった.社会全体として情報公開が求められる時代になった影響が医療にも及んだと考えられる.●情報公開制度と個人情報保護法● 誰もが行政機関や独立行政法人等が保持している文書の開示を求めることができる.情報公開制度が2001(平成13)年に開始された.2005(平成17)年に個人情報保護法が全面施行されてからは,患者や患者の委託を受けた家族などがカルテの開示や診療報酬明細書(レセプト)の開示を請求できるようになった.医療事故に関する情報は一般の人々の求めに応じて開示される時代となり,医療事故情報は医療機関が管理はするが,当事者がいつでも見られるものとなった.●医療の情報化により生じた医療事故● 電子カルテ,オーダリングシステム,患者確認照合システムに代表されるように,医療分野における情報化は急速に進んでいる.医療の情報化には医療従事者の業務の効率化や患者情報の迅速な共有化など多くのメリットがある.一方で,オーダリングシステムにおける薬剤名や投与量の入力ミスによる誤薬や過剰投与,薬剤の中止・変更の誤りによる二重投与などの医療事故も発生している.誤入力を防ぐシステムの開発などが進められている.●看護師こそ医療事故防止のとりで● 医療事故防止のとりでとなるのは,投薬を例に挙げると,処方箋を書く医師,処方箋に従って薬剤をピックアップし調整する薬剤師,処方箋に従って正しい薬剤を正しい患者に正しい方法で投与する看護師である.特に看護師は,投薬の最終的な実行者であるため,指示受け段階で指示の正しい理解と疑義照会の判断,準備段階で薬剤の知識と患者情報を統合した上での投与可否の判断,実施段階で患者の状態のアセスメントを自律的に実施し,投薬の可否を最終的に判断する責務がある.これらの責務は,情報化の進展にかかわらず存在し続けることを認識しておく必要がある.(4)医療機器,医薬品の開発と医療安全●複雑化する医療機器と医療事故● 医療機器の機能は高度化して,種類も増えている.高度な医療が提供できる反面,オーダリングシステム病院の医師・看護師が検査や投薬,注射などの指示(オーダー)を電子的に関係部局に伝達するシステム.診療から医事会計に関わる処理・業務を迅速化することができる.インフォームド コンセント医師が病状,予想される予後,診断方法,治療方針,成功率,副作用や合併症などを患者に十分に説明し,患者がそれらを理解した上で決定に同意すること.インフォームド ディシジョン治療やケアの方法として考えられるすべての選択肢について,その効果とリスクの情報をすべて得た上で,患者が主体的に意思決定して選択すること.インフォームドチョイスともいう.情報開示個人情報保護法を根拠として生存個人の請求による診療録の開示請求ができるようになった.ただし,第三者の不利益,または患者の心身の状況を著しく損なう恐れのある場合は非開示にできる.疑義照会医師の処方箋に疑問や不明点がある際,薬剤師や看護師が処方医に問い合わせて確認すること.14
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