医療機器の取り扱いが難しくなり,機器ごとに操作方法が異なることにより作業者が混乱して,事故につながる可能性も高くなっている. 医療機器は,さまざまな企業が独自に開発するのが一般的であるため,医療安全対策も各企業で独自に行われていた.しかし,単独の企業努力では解決できない医療事故が多発したため,近年では企業間の情報や技術の共有化も進んでいる. 例えば,①輸液ラインと経腸栄養ラインの誤接続防止対策,②人工呼吸器の事故対策,③ジャクソンリースと気管切開チューブの誤接続防止対策,④輸液ポンプやシリンジポンプの事故防止対策が代表的な例である. ①は,本来なら経腸栄養ラインから投与されるべき薬剤が,誤って三方活栓から輸液ラインに投与され,患者が亡くなる事故が多発したためにとられた対策である.事故の原因には,接続部分に輸液ラインと経腸栄養ラインで同一の規格が使われていたことが大きく関与したと考えられている.この事故をきっかけに国内外の企業が集まり,対応策が検討された.その結果,輸液ラインと経腸栄養ラインを物理的に接合できないサイズ(見た目にも明らかに違うサイズ)にし,各社の製品に互換性をもたせることになった.さらに,国内だけの基準では輸入品との間で誤接続が起きる可能性があるため,国際基準化への努力も続けられている.また,注射針,留置針およびカテーテルなどは,国際標準化機構規格(ISO)のカラーコードに基づき,外径を色で区別している.●医薬品と医療事故● 医薬品でも,医療事故につながりやすい要因が複数知られている.名称や包装,容器の色や形,表示方法が似ていたことにより医療従事者が取り違え,医薬品の保管や投与方法を誤るなどの事故が多発している.医薬品の取り扱いには,医師,薬剤師,看護師などの複数の職種が関与しているため,伝達ミスによる事故が発生しやすいことも特徴である.例えば,アルマールⓇ錠(血圧降下薬,2012年にアロチノロール錠に名称変更)とアマリールⓇ錠(血糖降下薬)がある.商品名が似ていたことから医師がコンピューターに入力する際に打ち間違えたり,薬剤師が処方箋を読み間違えて患者に誤って処方したりするケースが相次いだ. このような医療事故を防止するため,厚生労働省では,新たに承認する医薬品の名称の類似を防ぐための対策を講じている.また,内服薬処方箋の記載方法について,2010(平成22)年に薬名,分量,用法,用量の記載方法の標準化を行い,情報伝達エラーを防止するための取り組みを推奨している. 医療職は,医療機器,医薬品の利用者として,より利便性と安全性の高い製品の開発に寄与していく意識をもつ必要がある.また,新しい製品の利用に当たっては,取扱説明書をよく読み,使用方法を習得する必要がある.(5)チーム医療と医療安全●チーム医療の定義とチーム医療で生じる事故の要因● 近年の医学・医療技術は急速に高度化し,専門分化が進んでいる.また,日本の人口構造や疾病構造も急速に変化しており,社会の医療に対するニーズが複雑・多様化している.これらの変化に対応するためには,多職種の医療専門職がチームを組んでジャクソンリースバッグバルブマスク(BVM)の一つ.傷病者の口と鼻に空気を送り込む.ジャクソンリースは気道内圧調整能を有するタイプを指す.三方活栓静脈麻酔や輸液療法,点滴を行う際,薬液の流路を変更するために使用するコックのこと.増加する事故発生要因チーム医療の進展,地域医療連携の進展,医療機器の高度化・複雑化,新しい医薬品の開発,医療情報システムの進展とその切り替え,患者の高齢化など,事故発生要因は日々,増え続けている.151医療安全と看護の理念
元のページ ../index.html#15