1999(平成11)年に発生した手術患者取り違え事故をきっかけにして,日本の医療安全対策は急速に進展しました.国のとった各種の医療安全対策に呼応して,医療現場も急激な変化を遂げています.看護基礎教育では,2009(平成21)年度に保健師助産師看護師学校養成所指定規則が改正され,新しく設けられた「統合科目」の中に,「医療安全」の授業を組み込むこととされました.本書は,この新カリキュラムに対応して制作されたものです. 新人看護職員の1割弱が,就職後1年未満の間に職場を去ることが日本看護協会の調査(2004年)で明らかになりました.その後,関係法規の改正により,新人看護職員研修が努力義務化されるなどの対策がとられ離職率は減少しつつありますが,約7パーセントの新人看護職員が看護師となって間もない時期に職場を離れていく現状にあります.この離職原因の一つが,「医療事故を起こすのではないかと不安だ」というものです.この不安を軽減するためには,看護基礎教育の期間に,看護実践能力をしっかり身に付ける必要があることは言うまでもありません.また,日本の医療安全対策や医療現場で取り組まれている安全対策の概略,事故発生のメカニズムと発生防止の考え方,自分自身の力で医療事故を回避する方策などについて学習しておくことが必要です.本書の内容は,これらの知識を習得できるように構成されています. ところで,近年は「医療安全」に代わって,「患者安全」という用語が用いられるようになってきました.「医療安全」という用語からは,私たち医療者が中心となって医療における安全を守るというイメージをもつ人が多いと思います.一方,「患者安全」は,世界保健機関(WHO)が“patient safety management”という用語を使ったことから,「患者安全」と訳されています.これは,医療者だけで医療の安全を守るのではなく,医療に関わるすべての人々(患者・家族,医療者,地域・社会の人々)が参画して取り組む仕事という意味で使われています.医療事故の原因が,単に医療者によるエラーというよりも,複雑さを増す医療システムに潜んでいることが明らかになってきたためです.本テキストのタイトルは,日本で一般的に使われている「医療安全」としていますが,医療に関わるすべての人々が円滑なコミュニケーションをとりながら,医療を提供する環境を整えて,患者・家族にいかに質の良い医療を提供するかという意味をもつ「患者安全」の観点から解説していきます. 医療安全対策は今後さらに進展していきます.本書もそれに対応して改訂を重はじめに
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