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 災害対策基本法では,災害を「暴風,竜巻,豪雨,豪雪,洪こう水ずい,崖がけ崩くずれ,土石流,高たか潮しお,地震,津波,噴火,地じ滑すべりその他の異常な自然現象または,大規模な火事,もしくは爆発その他その及ぼす被害の程度において,これらに類する政令で定める原因により生ずる被害」と定義している(同法第2条第1項).また,世界保健機関(WHO)では,「重大かつ急激な出来事による人間とそれを取り巻く環境との広範囲な破壊の結果,被災地域がその対応に非常な努力を必要とし,時には外部や国際的な援助を必要とするほどの大規模な非常事態のことを災害という」と定義している.災害はさまざまな側面からとらえることができるため,その定義は機関や組織によって異なり,この他にも数多く存在する. ここで重要な点は,「災害」という用語は人為的な原因による事故や事件も含むことであり,人命や社会生活,心に甚大な影響を与えるということである.そして,大規模な災害の場合,被災地域は自力だけでその被害に対応することが困難で,外部からの支援を必要とすることである.災害の定義を踏まえて現象をとらえると,災害時の対応が明確になる. 災害と同様,災害看護の定義も複数存在しており,機関や組織によってその概念は異なる.日本災害看護学会では,災害看護を「災害に関する看護独自の知識や技術を体系的にかつ柔軟に用いるとともに,他の専門分野と協力して,災害の及ぼす生命や健康生活への被害を極力少なくするための活動を展開すること」と定義している. 定義は,できるだけ多くの事実から帰き納のうされるものだが,災害にはそれぞれ特徴があるため,過去の災害による事実から帰納された定義には,未来を見通す説明力が不足することが考えられる.例えば,阪神・淡路大震災と東日本大震災では被害の様相がまったく異なり,被災状況やその後の支援のかたちも大きく異なった.阪神・淡路大震災の定義がそのまま東日本大震災には当てはまらないということである.したがって災害看護の定義は,時代や個人・社会の多様性の変化に即して,流動的かつダイナミックにとらえるのがよいだろう. 看護職者は,複合化・多様化・長期化している被災後の状況を災害看護の視点でとらえ,必要とされる災害看護は常に変化する可能性があることを念頭に置く必要がある.ただ,災害看護の定義で最も重要な視点は,災害の規模や種類にかかわらず,人的・物的資源が不足している中で,災害の及ぼす生命や健康生活への被害を極力少なくすること,人が自立して生活する力が高まるよう環境を整えること,中長期的視点で他職種との連携を図り,刻々と変化する地域のニーズに応じることである. 1災害看護の定義 1災害とは災害対策基本法1959(昭和34)年の伊勢湾台風を契機として,1961(昭和36)年に制定された災害対策関係法律の一般法.この法律の制定以前は災害の都度,関連法律が制定され,他法律との整合性について十分考慮されないまま作用していた.そのため,防災行政は十分な効果を上げることができなかった.このような防災体制の不備を改め災害対策全体を体系化し,総合的かつ計画的な防災行政の整備および推進を図るために制定された.この法律の目的は国土ならびに国民の生命,身体および財産を災害から保護し,社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することである.世界保健機関:WHO1948(昭和23)年に設立された,保健および公衆衛生についての指針を示し,調整する国連の専門機関.p.234参照. 2災害看護とは14

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