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 災害看護は,災害発生直後から災害サイクルすべての時期において,あらゆる生活の場の人々を対象とした大切な人のいのちと生活を守るための看護である.災害看護は災害現場,避難所,応急仮設住宅など人々が生活するあらゆる場で実践する看護活動であり,災害看護の実践の場は,医療施設内にとどまらない.したがって,極めて複雑な生活の場における看護上のニーズに対し,責任ある問題解決能力が求められるといえる. 特に,災害看護が対象とする地域における生活の実態は,被害状況とともに複雑になる.災害による人々への被害は,数値では表現しきれず,生命と生活に関する質的な問題が災害各期に潜んでいる.したがって,災害看護では,刻々と変化していく被害状況を敏感にとらえる情報収集能力,その中で必要な知識や情報を選択し優先的に活用していく能力,選択した課題に対して積極的に挑む問題解決能力,困難に立ち向かう強い意志,良好な人間関係を築く資質など,主体的に災害時の状況の変化に対応する能力が求められる.このことは,生涯にわたり看護実践を通して研けん鑽さんを重ねつつ専門性を深める能力と関係しており,生涯学習の基礎能力である自ら学び自ら考える力を育成することにつながる.また災害看護では,人間や人間の生活に深く関わりをもちながら,人々の生き方や価値観に応じてその人の健康生活と自立を支えることになるため,災害各期に応じた長期的な被災者との人間関係形成過程が特に重要となる. 思いやりや倫理観にあふれた医療に対する国民のニーズが高まっている現在,看護実践能力として,単なる科学的な知識・技術の習得ではなく,豊かな人間性を兼ね備え,地域の条件に合わせた自立を目指した援助方法を創り出していく能力が求められている.同時に,人口構成が変化し社会システムが変化していく中,主体的に社会の変化に対応できる能力も求められている.災害体験からの学びはこれらの能力を高めるだけでなく,ストレスから立ち直る力なども含めて力強いものがある.災害が語りかけてくる人と人との助け合いや,いのちの大切さを受け止め,災害看護の学びを通して看護の原点に立ち戻ることが,今われわれに求められているのではないだろうか. 2011(平成23)年3月11日,東日本大震災が発生した.地震が発生し津波が押し寄せ,原発が制御できなくなるなど,立て続けに危機的状況に陥った.情報が途絶したため国がコントロール力を失い,被災地に残された人たちは自力で自分たちを救うしかなかったのである. 災害発生時は積雪があり,気温が零下となる中,肺炎や喘息の増悪,ストレスと寒冷による呼吸器疾患や慢性疾患の増悪,低体温,車中泊によるエコノミークラス症候群,感染症の増悪,津波で泥水を飲んだことやストレス,寒冷などによる下痢などの胃腸症状の出現などがみられ,災害関連死の多発が懸念された.特に高齢者は健康状態の悪化,妊婦は流早産の危険,さらに子どもたちは心のケアや学習支援など,長期的に取り組まなければならない課題が山積していた. 3災害看護を学ぶ意味151災害看護とは

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