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1緩和ケア概論13 医療者は,終末期に限らず,患者のこれらすべての苦痛を和らげ,その人らしい毎日を送ることを支える必要がある.がんと診断された時点からの,このさまざまな苦痛の緩和を目的とした治療あるいはケアを, 緩和ケア(緩和医療)と呼ぶ. 緩和ケアの基本的な考え方に,患者の苦痛をトータルにとらえる全人的苦痛という概念がある(図1-2).痛みなどの身体的苦痛だけでなく,不安や抑うつなどの精神的苦痛,仕事,家庭,経済上の問題などの社会的苦痛,なぜ自分はがんになってしまったのだろうか,自分の人生に意味はあったのだろうか,何か悪いことをした罪なのだろうか,といったスピリチュアルペイン(霊的苦痛)などを全人的苦痛(トータルペイン)としてとらえる.これは,がん患者の症状だけを見るのではなく,一人の人間としてとらえ,すべての苦痛を緩和する必要があるという考え方である. がんの治療期,慢性期における生活の質(QOL)は,身体的側面,精神的側面,社会的側面における生活の維持向上として定義されることが多く,場合によってはこれにスピリチュアル(霊的)な側面も加えて考えられている.これは,全人的苦痛(トータルペイン)そのものである.がん患者は再発・転移などで死から逃れられないことも多く,そのような場合には生存期間の延長だけでなくQOLをどれくらい維持・向上できるかが問題になる.また,治療中,あるいは治療が奏効した場合でも,患者は治療の副作用による身体的苦痛や不安などの精神的苦痛,仕事や家庭の問題などの社会的苦痛を抱えることが少なくない.この場合もQOLの維持・向上を支えることが緩和ケアの目的である. 2全人的苦痛(トータルペイン)とQOL(生活の質)QOLquality of life.生存期間の長さや医学的側面だけでなく,生活の質を高め,その人らしい生活を送ること.身体面,精神面,社会面,スピリチュアルな側面などから多元的にとらえられる.淀川キリスト教病院ホスピス編. 緩和ケアマニュアル.第5版. 最新医学社,2007,p.39より一部改変.身体的苦痛全人的苦痛(total pain)痛み他の身体症状日常生活動作の支障スピリチュアルペイン社会的苦痛仕事上の問題経済上の問題家庭内の問題人間関係遺産相続精神的苦痛不安いらだち孤独感恐れうつ状態怒り人生の意味への問い価値体系の変化苦しみの意味罪の意識死の恐怖神の存在への追求死生観に対する悩み図1-2●全人的苦痛(トータルペイン)●事例で考える病みの軌跡 〈動画〉

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