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14 がん患者は診断時からさまざまな苦痛を抱えており,すべての治療段階において緩和ケアが必要である.しかし,がんは手術や化学療法などの治療期を除けば,比較的通常どおりの生活を送ることが可能な疾患でもある.がん患者では死亡前6カ月~2週間の終末期に多くの症状が出現し,日常生活動作(activities of daily living:ADL )も低下する.終末期は緩和ケアによる支援が最も必要となる時期である. がんは痛みの出現によって診断されることも多く,痛みは最も早期から出現する症状の一つである.しかし,その他の症状は死亡前30日ごろから急速に頻度が高まる(p.238図8-1参照). 日常生活動作の障害の出現と生存期間の関係の調査例を,図1-3に示す.一般的に死亡前2週間では,全体の70~80%の患者は移動が可能であり,多くが食事や水分摂取なども可能である.これらの日常生活動作は死亡前10日以内になると急速に障害され,死亡直前には意識レベルの低下がみられたり寝たきりとなったりすることが多い. 精神面では,キューブラー=ロスが死にゆく過程の心理変化を示している(p.145図3-2,詳細は後述).ロスは,がん患者が死から逃れられないことを知らされたときの受容過程を,衝撃から,否認,怒り,取り引き,抑うつ,受容といった段階で示した.もちろんすべての患者がこのプロセスにあてはまるわけではないが,患者の心理反応を理解する上では参考になる. 3終末期がん患者の死への過程エリザベス・ キューブラー=ロスElisabeth Kübler-Ross(1926-2004).スイスに生まれ,チューリッヒ大学医学部を卒業した後にアメリカに渡った.精神科医として多くの死にゆく患者と対話し,『死ぬ瞬間』を著した.否 認自分が死ぬというのは「何かの間違いではないのか」「そんなはずはない」と疑い,それを否定しようとする段階.取り引きなんとか死を避けられるように,取り引きをしようと試みる段階.例えば「何でもしますから,死だけは回避させてください」というように,神や何かにすがろうとする心理状態.移動食事水分摂取排尿排便応答会話~151050(日)1007550250累積頻度生存期間↑死亡淀川キリスト教病院ホスピス編.緩和ケアマニュアル.第5版.最新医学社,2007,p.3より.(%)図1-3●日常生活動作の障害の出現と生存期間(淀川キリスト教病院ホスピス)
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