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1緩和ケア概論15 2000年ごろから,緩和ケアの目標を再度見直し,望ましい死(Good Death),質の高い死への過程(Quality of Death and Dying Process)とは何かを明確にする試みが,世界的になされるようになった2).図1-4は,日本人における望ましい死のあり方の研究結果である3).日本人における望ましい死は,苦痛の緩和や望ましい療養場所,家族や医療者との関係性,人としての尊厳の維持などの多くの人が共通して大切にしていることと,できる限りの治療を受けることや死への準備をすること,宗教に関することなど,人によって重要さは異なるが大切にしていることの二つの側面に分けられた.これは前述の全人的苦痛(トータルペイン)の解決を,患者の希望という側面から表現したものと考えられる.その人らしく最期まで生きるためには,身体症状や精神症状の緩和だけでなく,他者との関係性などを含め,患者を多面的にとらえる必 4望ましい死とは何かGood Death2000年ごろから,かつて緩和ケアにおける医学的側面の主流であった,痛みなどの身体的症状や抑うつなどの精神的症状への対処だけでなく,緩和ケアの目標を見直し,より全人的に患者をとらえ,支援することをケアの目標にするという考え方が世界に広がった.全人的側面を医学研究に位置付けたことに意味がある.多くの人が共通して大切にしていること人によって重要さは異なるが大切にしていること 身体的・心理的なつらさが和らげられている ・身体に苦痛を感じない ・穏やかな気持ちでいられる 望んだ場所で過ごす ・自宅や病院など,自分が望んだ場所で過ごす 希望や楽しみがある ・希望をもって過ごす ・楽しみになることがある ・明るさを失わずに過ごす 医師や看護師を信頼できる ・信頼できる医師にみてもらえる ・安心できる看護師にみてもらえる ・医師と話し合って診療を決められる 家族や他人の負担にならない ・家族の負担にならない ・人に迷惑をかけない ・お金の心配がない 家族や友人とよい関係でいる ・家族や友人と一緒に過ごす ・家族や友人に支えられている ・家族や友人に気持ちを伝えられる 自立している ・身の回りのことが自分でできる ・意識や思考がしっかりしている ・ものが食べられる 落ち着いた環境で過ごす ・静かな環境で過ごす ・自由で気兼ねしない環境で過ごす 人として大切にされる ・「もの」や子ども扱いされない ・生き方や価値観が尊重される ・日常のささいなことに煩わされない 人生を全うしたと感じる ・振り返って人生を全うしたと思うことができる ・心残りがない ・家族が悔いを残さない できるだけの治療を受ける ・やるだけの治療はしたと思える ・最期まで病気とたたかう ・できるだけ長く生きる 自然な形で過ごす ・自然に近い形で最期を迎える ・機械やチューブにつながれない 大切な人に伝えたいことを伝えておける ・大切な人にお別れを言う ・会いたい人に会っておく ・周りの人に感謝の気持ちがもてる 先々のことを自分で決められる ・先々何が起こるかをあらかじめ知っておく ・残された時間を知っておく ・お墓,葬式,遺言などの準備をしておく 病気や死を意識しないで過ごす ・死を意識せず,普段と同じように毎日を送れる ・よくないことは知らないでいられる ・知らないうちに死が訪れる 他人に弱った姿を見せない ・家族や周りの人に弱った姿を見せない ・他人から同情や哀れみを受けない ・容姿がいままでと変わらない 生きていることに価値を感じられる ・生きていることに価値を感じられる ・仕事や家族としての役割を果たせる ・人の役に立っていると感じる 信仰に支えられている ・信仰をもっている ・自分を超えた何かに守られているように感じる図1-4●日本人における望ましい死のあり方

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