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 緩和ケアは,WHOによって「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,痛みやその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に同定し,適切な評価と治療によって,苦痛の予防と緩和を行うことで,クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである」と定義されている.以前は「ターミナルケア」ともいわれ,終末期に行われるケアが主体であったが,現在では,診断時など早期からの緩和ケアの重要性が叫ばれ,その焦点も,死にゆく患者のケアから苦痛の緩和に移ってきた. わが国では,緩和ケアはがんを中心に発展してきており,本書の記述も多くが,がん患者の緩和ケアに基づくものであるが,今後は非がん患者への緩和ケアが重要となるであろう.がん患者の緩和ケアに関する知識の多くが,非がん患者にも適用しうる. 緩和ケアは,基本的緩和ケアと専門的緩和ケアに分けられる.基本的緩和ケアは一般病棟や外来,在宅などで,がんの診断時から看護師を含むすべての医療者によって提供されるべきものである.したがって,がん医療に携わるすべての看護師は基本的な緩和ケアに関する知識を持ち,実践できなくてはならない.本書はこの「基本的緩和ケア」を学ぶための教科書である. 著者らはこれまで,看護学生に対して緩和ケアの教育を行う際,既存の教科書を参考にしてきた.しかし,看護学生に対して用いるには掲載されている内容が多すぎて整理が悪い,文字が多く全体像がつかみにくい,データや情報が最新のものではないなどの理由で,1冊で十分に満足できるものがなかった.「自分たちが自信を持って最新の緩和ケアを教えるための教科書を作ろう!」,これが本書を執筆したきっかけである. 本書を執筆するにあたり,私たちは以下の点を心掛けた.1)できるだけ平易な記述とし,幅広い看護学生に対応できるようにした2)図や表を用いて視覚的にもわかりやすく内容を伝えるようにした3)講義だけでなく臨床実習でも活用できる内容とした4)最新のデータやガイドラインなどに基づく情報を掲載した5)できる限り最新で信頼しうるエビデンスに基づく内容とした 当初は掲載する内容を厳選するつもりだったが,臨床実習での活用を考えると,病態と治療および看護に関する内容が厚くなった.しかし,その結果,本書は看護師として働き始めてからも十分活用できるものになったと思われる.はじめに

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