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[疫学] 呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome:RDS)は,1903年にホッホハイム(Hochheim,K.)によって,早産児の肺硝子膜症として初めて記載報告された.1987年から人工肺サーファクタント製剤が一般に販売され,RDSの治療成績が改善し,早産児の救命率は劇的に向上した.肺の未熟性から起こるサーファクタント分泌不全が主因のため,主に在胎34週未満の早産児に発症する.日本における発症頻度は在胎31〜33週では約20%,在胎28〜30週では約60%,在胎28週未満では70〜80%である.一般的に,より早産児であるほど発症頻度は高くなる.(1)発症機序 基本病態は肺の未熟性で,在胎28週ごろより肺胞にあるⅡ型肺胞上皮細胞から分泌され,34週前後から急速に増加する肺サーファクタントの欠乏による肺胞の虚脱(無気肺)である.肺サーファクタントは肺胞表面を薄く覆い,肺胞表面張力を低下させ,肺胞が虚脱するのを防ぐ. 早産児,男児,子宮収縮が始まる前の帝王切開による娩出,仮死,コントロール不良な母体糖尿病,甲状腺機能低下症,同胞(兄弟姉妹)のRDS発症,低体温,母体の低栄養,重度の胎児発育不全,溶血性疾患などでRDSの発症頻度は高くなり,出生前の母体へのステロイド投与によって予防できる.在胎週数が少ないほど,肺が未熟でRDSは重症化しやすい.(2)分類 胸部単純X線写真によるRDSの重症度の評価として,ボムセル分類(Bomsel分類)がある(表1.1-1,図1.1-1).数字が大きくなるほど重症度が増す.(3)病態変化 気道末端の広範な無気肺と,肺胞壁での肺硝子膜形成や肺浮腫による換気・酸素化障害である.肺胞や毛細血管の透過性が亢進して血漿成分が肺胞内に侵入し,肺サーファクタント活性を強く阻害して呼吸障害をさらに増悪させる. 1呼吸窮迫症候群(respiratorydistresssyndrome:RDS)早産児在胎週数(真の妊娠期間+2週)が37週から42週未満で出生した児を正期産児と呼び,22週から37週未満で出生した児を早産児という. 1疾病の概念人工肺サーファクタント人工肺サーファクタントは,気管内挿管後に気管チューブを介して直接肺内に投与する.通常体位変換を行いながら3〜5分割(正中位・左と右側臥位,上体挙上と下肢挙上)して肺全体に均等に投与する.体位変換時には挿管チューブの先端位置がずれないように,顎の位置とチューブ固定に注意を払いながら投与する.Bomsel分類胸部単純X線所見Ⅰ度肺野にわずかに網状顆粒状陰影が認められる.肺の透亮性は正常で,気管支透亮像は認められないⅡ度肺全体に明らかな網状顆粒状陰影を示す.肺の透亮性は軽度減少し,気管支透亮像が心陰影を超えてわずかに認められるⅢ度肺全体に強度の網状顆粒状陰影を認める.肺の透亮性は減少し,肺全体にわたり気管支透亮像が認められる.心陰影境界は不明瞭Ⅳ度両肺野は完全に濃厚なすりガラス状陰影となり,心陰影境界の判別は不可能表1.1-1●呼吸窮迫症候群の胸部単純X線所見によるBomsel分類14

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