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学習ポイント●成人にとって,健康とは自分自身の健康観と客観的な健康指標との一致や不一致を吟味し,バランスをとりながらセルフケアを維持することであると理解する.●成人にとっての危機には,個人の心理的危機,身体的危機,社会的危機があることを理解する.●成人看護学における健康危機状況とは,その人にとって健康状態が危うい状況を指し,医学的診断の有無にかかわらず,健康状態がよくなるか悪くなるかの移行期であり,セルフケア困難な状況をいうことを理解する. WHO(世界保健機関)は,その憲章前文で「健康」を “Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”(「完全な肉体的,精神的及び社会的福祉の状態であり,単に疾病又は病弱の存在しないことではない」昭和26年官報掲載の訳)とする.近年,この定義に,スピリチュアル,変動する(dynamic)という視点を追加することが議論されている 1)が,この「完全な状態 a state of complete」とはどのような指標に照らして評価していくのだろう. 一人ひとりが,自分の健康をどうとらえるか(主観的健康)には,いくつもの指標がある.例えば,「私は,病気一つしたことがなく健康だ」という場合は,病気があるかどうか,「昔,事故で片足を失ったが,今はいたって健康だ」という場合は,身体障害があるかどうか,「このごろは気力が充実しているから健康だが,昨年の今ごろは,仕事で失敗して眠れない日が続き,不健康そのものだった」という場合は,心理状態の変化が指標になっている.このように,個人の健康観には多様性がある.しかし,成人は「大人」として,心身ともに成熟し,自立および自律して生活する存在である.それ故,成人は,自分で自分の健康をどのようにとらえようとも,健康上の問題についてセルフケア(self care)しているとみなすことができる. 実際,健康情報があふれている現代社会では,デスクワークばかりの人がウオーキングを始め,個食になりがちな人が健康食品を利用したりする.「健康のありがたさを入院して初めて知った」というように,セルフケアを意識していない人もいるが,そういう人も,空腹になれば食事をし,疲れたら眠るというような普遍的なセルフケアを継続している. 一方,本人がうまくセルフケアしていると見なしていても,それが周囲の見方(客観的健康)にそぐわない場合もある.この客観的健康の指標として最も用いられているものが,医学的指標である.とりわけ,健康日本21政策のもとにあるわが国では,公衆衛生学的データから,医学的指標が示され,健康保持のための行動(保健行動)が推奨されている. 1健康危機状況にある成人の理解 1成人にとっての健康とはWHO「健康」の定義の翻訳について現在,WHO「健康」の定義の訳文は,「健康とは,身体的,精神的ならびに社会的に完全に良好な状態にあることであり,単に病気や虚弱ではないことにとどまるものではない」というものが一般的である.これらの翻訳ではwell-beingが,「良好な」と翻訳されている.しかし,このwell-beingには,福祉,幸福,福利などの意味もあるため,原文と発表当時の官報の翻訳を掲載した.→ナーシング・グラフィカ 『成人看護学概論』14章参照.個 食孤食ともいう.家族が一人ひとり違う時間に食事をとること.個食は,一人分や一食分に小分けされた食品のこともいう.→ナーシング・グラフィカ 『成人看護学概論』7章参照.14
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