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 セルフケアという概念を軸に据えて,『成人看護学概論』に加える三つの視点として,『健康危機状況』『セルフケアの再獲得』『セルフマネジメント』の三分冊でスタートした本シリーズの成人看護学は,『周手術期看護』『リハビリテーション看護』『緩和ケア』の分冊を加え,合わせて7分冊となった.各分冊の主題とする点が似通っている中,とりわけ,『健康危機状況』と『周手術期看護』,『セルフケアの再獲得』と『リハビリテーション看護』の重なりがあり,7分冊として提供することが,本シリーズを活用する学生たちにとって不利益になることが考えられた. そこで,今回,私たちは,「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会最終報告」に示された“急激な健康破綻と回復過程にある人々を援助する能力”に焦点をあてた1冊として,『健康危機状況』と『セルフケアの再獲得』を統合して読者に提示することとした. 人口減少社会に突入し,来る多死社会の到来に備え,わが国では,高齢者看護ならびに在宅看護へと,看護学で習得すべき内容がよりシフトしていく.医療費抑制の観点から,国民の誰もが高度な先進医療の恩恵を受けられることを目指した時代は,終わりを告げようとしている.しかし,そのような時代背景にあっても,成人は社会的役割を果たすべく,可能な限り健康状態の回復を医療に求めると考える.それゆえに,成人にとっては,医学とともにある看護の重要性がますます際立つと考える. 本書が示す「健康危機状況」という視点は,成人ならば誰しも自分の健康をセルフケアしようとしているという大前提に立ち,そのセルフケアが危機的状況にあるときの看護に焦点をあてている.いま一度,医学の積極的な活用を推奨し,しかし,医学的指標だけで人の健康を測るのではなく,一人ひとりの成人の「健康観」「健康感」に沿う看護を考えるヒントになればと願う. 一方,1981年の国際障害者年に始まり,好景気の中でのライフサポートテクノロジーの発達とともにバリアフリー化が進められ,生活者としての個人の回復に向けた支援が,リハビリテーション看護という視座とともに発展した.現在,リハビリテーションという言葉は,機能回復訓練や理学療法と同一視されることが多いが,リハビリテーション看護という視点でこそ強調できる重要な看護援助があることは,今もって変わることはない.そこにあらためて光を当てたのが,本書の「セルフケアの再獲得」という視点である.はじめに

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