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(1)母性とは 母性とは,父性と対をなす概念である.一人の人間の中には,両方の特性があると考えられている.近年では性の間の平等を目指して,特に子育てに伴う属性に対しては,親おや性せいもしくは養育性という概念も用いられるようになってきている.(2)母親としての経験 ルービン(Rubin, R.)は,20年にわたる看護実践の中で,6千人に及ぶ妊産婦の観察から,妊娠から産後1カ月までに焦点を当て,母親の経験をまとめた.●母親としてのアイデンティティ● 母親としてのアイデンティティ(maternal identity)は,生育歴だけで決まるのではない.女性は自分と子どもを取り巻く家族や社会との関わりを通して,客我と主我との対話を繰り返しながら,母親としてのアイデンティティをらせん的に自分のパーソナリティに組み入れていく. 妊娠中には,①模倣,②予行演習,③空想を通して,良い母親の行動を内面化し,自分自身の役割への期待を膨らませる.①模 倣 妊娠中に出会う専門家や周囲の妊婦,親となった人を観察し,モデルにして母親らしさを発見しようとする.どんな気持ちがするのか,ほかの人にはどう見られるのかを考えてマタニティウエアを選ぶかもしれない.出産間近の妊婦の歩き方を真似ることもある.②予行演習 母親たちがしていることをやってみる.ほかの人の赤ちゃんを抱っこしてみたり,うまくできるかどうかを予行演習で確かめる.パートナーや実母の反応に敏感になる.③空 想 出産を飛び越えて,もっと大きくなった子どもとの生活を夢見る. 女性は,いろいろな母親の行動を観察・比較して,自分の考えに合うかどうかで取捨選択する.一方で,母親になってしまうと母親でない自分に引き返せないため,あきらめなくてはならないこともある.今までの人生を見直し,過去の自己と決別する準備が行われる.それには,パートナーなどに聞き手になってもらう必要がある.現実の自己を受け入れることができれば,将来の楽しみへとつながり,家族や子どもとの絆が深まる.現実の受け入れが難しい場合は,悲嘆を伴う.●妊娠中の母親としての課題● 上述のプロセスで達成される母親としての課題には,①安全な経過,②他者からの受容,③まだ見ぬ子との絆の形成,④自ら与えること,の四つがある.①安全な経過 自分と子どもが出産まで安全に経過することを求め,安全が最優先事項になる.医 1母性看護の中心概念 1母親になることルービンの理論ルービンの理論には,ミード(Meed,G.H.)の自我形成理論,リンデマン(Lindemann, E.)の悲嘆過程,フェスティンガー(Festinger, L.)の認知不協和理論などが組み入れられている.母親としての経験の記述の箇所に身体,時間,空間を取り上げている点は,オランダ現象学の影響がみてとれる.14

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