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母性剥奪が原因と考えられた症状は,劣悪な養育環境や不特定多数の人による養育によって引き起こされることを明らかにした.しかし,その後ラターらは,人為的な母性剥奪といえるチャウシェスク政権下の孤児たちの追跡調査を行い,愛着理論の真価を証明してもいる. 親子関係の機能的側面には,愛着(守られている感じ-探索)/絆(情緒的応答性)ばかりではなく,警戒/保護,生理的調節/適切な世話,情緒の調節と共有/共感的応答,遊びと学び/教え,自我コントロール/しつけの側面もある. 乳幼児と母親ないし父親との親和的結びつきは,子ども側から(子から親へ)は愛着(アタッチメント,attachment),親側から(親から子へ)は絆(ボンディング,bonding)という.●ボンディングとは● 小児科医であるクラウスとケネル(Klaus, M.H. & Kennell, J.H.)は,絆とは,二人の間に生まれる特殊な関係で,それは特異的でしかも長い間続く関係であるとした.親の子どもに対する絆は,妊娠中から準備が始まっている.一方,乳児には,相互作用に対する生得的な能力が備わっており,行動の同調現象(エントレイメント)や声,行動,表情の模倣などをする.親子の絆の形成には,出産後,親子が見つめ合ったり,触れ合ったりする相互作用が重要であると説いた.●親子相互作用理論● 親と子の関係については,親と子の相互作用に着目し,親子に対する予防的介入や治療的介入につなげていこうという試みがなされてきている.文化や環境との相互作用,間主観性の観点からの研究,ならびに脳科学などからも解明されつつある. ●バーナードモデル● 養育者と乳幼児との日常生活の中で,親子の相互作用が頻繁に繰り返されている,食べること(授乳すること)や遊ぶこと(教えること)に着目して,理論を開発した看護学者がバーナード(Barnard, K.)である. バーナードモデルでは,親子の相互作用において親と子がお互いに役割を果たしているとする点に特徴がある.子どもはわかりやすいキュー(Cue)を出して養育者に働きかけ,養育者はそのキューに気付いてタイミングよく話しかけたり,不快な状態を和らげたりして対応している(図1-1).この楽しく温かみに満ちた相互作用は,子どもの健康な成長発達の基盤となっている. 図の中の「//」は,スムーズな相互作用の妨害を意味する.例えば,早産児はあまり泣かないためキューが不明瞭だったり,親が病気などの場合は子どものキューに気付かなかったり,うまく対 3ボンディングと親子相互作用愛着と母性愛との混同愛着が母性的養育を必要としたことから,母性愛との混同が起こった.フランスのフェミニストであるバダンテール(Badinter, E.)は,「(愛着は本能かもしれないが)母性愛は本能などではない」と説いた.ルービン(Rubin, R.)も母性は能力であって,周囲からのサポートがあってこそ開花すると述べている.日本では,船橋 (社会学),大日向(心理学)などの母性愛に対する批判がある.三歳児神話の信奉率は,日:仏=44:17である.日本での育児支援政策の立ち遅れは,母性イデオロギーと無縁ではないだろう.ミラーニューロン1996年に発見された神経細胞で,観察することと行動することとをつなぎ,見て真似ることをつかさどる細胞として着目されている.心や言葉の解明にも役立つのではないかといわれている.Sumner, G., Spieyz, A. 養育者/親-子ども相互作用フィーディングマニュアル.廣瀬たい子監訳,NCAST-AVENUW. NCAST研究会, 2008,p.3.乳幼児のCueに対する感受性乳幼児の不快な状態の緩和発育を促進する環境の提供Cueの明瞭性養育者/親への反応性養育者/親の特性乳幼児/子どもの特性図1-1●バーナードの看護モデル171母性看護の基盤となる概念

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