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 母性看護の対象者である生殖年齢にある人々の健康は,その人だけの健康にとどまらず,次世代に影響を及ぼす. 妊婦は,インターネットや雑誌を通じて,妊娠中の過ごし方に関する情報を収集し,自分に合ったものを選び,日常生活に取り入れている.非妊時は運動をしていない女性でも,自身の体調や胎児の健康を考え,マタニティーヨガ,マタニティースイミングといった妊婦対象の運動を始める.新たな運動を取り入れることはなくても,日常生活の中で身体を動かしたり,歩行を意識したりする. このように女性は妊娠をきっかけに生活を見直し,自己の健康を向上させる取り組みを始める.これは妊婦がセルフケアを取り入れた日常生活の改善であり,ヘルスプロモーションそのものである.セルフケアを行うには,必要な情報の収集と,意思決定が伴う. 妊婦は,妊娠の維持,胎児の健康のためにさまざまな取り組みを行っている.看護者は,妊婦一人ひとりの話に耳を傾け,妊婦のセルフケアを支援するために,情報提供を行い,妊婦がより良い妊娠生活にしようと実践していることを称賛し,妊婦の自信を高めるようエンパワメントする.エンパワメントの前提は,「当事者は自分自身でやっていく力が備わっている」と看護者が当事者の力を信じて関わることである. 妊娠初期の妊婦健康診査時,「妊娠がわかってから,たばこをやめました」という妊婦の発言を聞く.ニコチンのもつ依存性が原因で禁煙が難しいなか,喫煙が妊婦自身だけでなく,胎児に影響することを知った女性は,自らの生活習慣を改めるセルフケアを行い禁煙をする.看護者は妊婦に対して,自ら禁煙したことを認め,妊婦は,禁煙できた自分自身に対して自信がもてるようになる.一方で,看護者はニコチンの依存により再喫煙する可能性があることを知っているため,毎回の妊婦健診で,妊婦が自覚している禁煙による体調の変化を確認する.例えば口臭が減るといった良い変化を確認しながら,禁煙を維持する方法を妊婦と共に考え,妊婦をエンパワメントする. 2母性看護実践を支える概念セルフケア個人や家族が行う促進,維持,治療,ケア,健康関連の意思決定を含む健康活動.ヘルスプロモーション人々が自らの健康をコントロールし,改善することができるようにするプロセス(オタワ憲章).エンパワメント個人,組織,コミュニティーのレベルがある.個人レベルのエンパワメントは,当事者がもっている潜在力を引き出し,自分の生活や人生をコントロールする感覚をもつこと.れる.「親である私」に違和感がなくなるまでの期間は,移行期である.さまざまな感情があり,その期間も人それぞれに異なる.親になるという準備状態や,支援状況,子どもの健康状態やなだめやすさといった気質によって時間を要することがある. 子どもがいない新婚期で考えると,それまで別々に暮らしていた女性と男性が生活を共にし,夫婦関係と家族関係を形成していく,あるいは養育期の中で,第2子,3子と家族が拡大していく段階もまた移行期である. 母性看護では女性を中心としたケア,家族を中心としたケアを重視する.妊娠・分娩・子育ては,女性と家族にとって重要な出来事である.一人ひとりの体験と意思を尊重し,女性のもつ力が引き出され,安全で安心できる環境の中で,女性や家族と協働した個別的かつ柔軟なケアを提供する.母親として,特に夫(パートナー)からの支援とフィードバックは,母親の気持ちや自信を安定・向上・促進させる上で重要となる.女性を中心としたケア女性自身が医療に関する選択肢をもてるよう,情報,教育,力を得る方向にケアすること.家族を中心としたケア家族が医療を求めるあらゆるところで展開され,家族の優先するニーズに応えるため,家族と専門家が協働すること.211マタニティーサイクルにある人々の看護の主要な概念

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