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5呼吸不全呼吸不全1respiratory failure1呼吸不全とは1病態 呼吸不全とは,肺から酸素を動脈血に取り込む酸素化ができないこと(低酸素血症)と,体内の代謝で産生された二酸化炭素が肺から排出できずに動脈血中に蓄積すること(高二酸化炭素血症)のいずれか,あるいはその両方である.急性呼吸不全と慢性呼吸不全がある.急性呼吸不全はさまざまな疾患で起こり,代表的なものとして肺炎や肺血栓塞栓症,気胸が挙げられる.慢性呼吸不全は,閉塞性肺疾患や間質性肺炎が代表的だが,感染や心不全などを契機に急性に増悪する場合もある.低酸素血症のみが存在するⅠ型呼吸不全と,低酸素血症と高二酸化炭素血症が混在するⅡ型呼吸不全に分類される.低酸素血症は,動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下と定義される.高二酸化炭素血症は,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が45Torrより高値と定義される. 呼吸不全だとなぜ困るのか.低酸素血症では,体内の各臓器(脳や腎臓など),各組織(筋組織や神経組織など)に十分な酸素を供給できず,臓器機能が維持できなくなってしまう.特に,中枢神経系と心筋は低酸素血症による障害を受けやすい.臨床症状として,頻呼吸などの呼吸器症状や,頻脈などの循環器症状,意識障害などの中枢神経障害がみられる.また,二酸化炭素は体内で酸さん塩えん基き平へい衡こうに関わるため,高二酸化炭素血症から呼吸性アシドーシスを来す.さらに,血中PaCO2の上昇により脳血流を増加させ,脳脊髄液圧を上昇させて,嘔吐や頭痛を引き起こす可能性や,視力障害や意識障害を来す可能性がある.2呼吸不全の原因 呼吸不全の原因として,拡散障害,シャント,換気血流比不均等(V/Qミスマッチ),肺胞低換気の四つがある(図5-1).いずれかの原因が単独で起こるだけでなく,複数の原因が合併する場合もある.拡散障害 肺胞と毛細血管間での酸素と二酸化炭素の移動は濃度勾こう配ばいによって行われる.この機序を拡散と呼ぶ.拡散障害とは,肺胞内の空気と毛細血管を隔てる間質が厚くなって,酸素と二酸化炭素の移動が妨げられる病態である.代表的な疾患として,間質性肺炎が挙げられる.シャント シャントとは,血液が本来のルートとは別のルートを通ることである.呼吸不全の原因となるシャントは,静脈血が肺で酸素を受け取れないまま,左心系(左心房・左心室・動脈)に流れ込むこと(右左シャント)をいう.シャントの経路は,心臓内にあるものと肺内にあるものの二つに大別できる.心臓内にあ酸塩基平衡については,1章6節p.19参照.109

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