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 日本人の死因の第1位は悪性新生物であるが,近年,循環器疾患の患者数の増加とそれに伴う脳卒中を含む循環器疾患患者へ費やされる医療費の額は,国民医療費中の医科診療医療費全体の約20%を占め,年々増大している. 65歳以上でみると循環器疾患患者が費やす医療費の割合は,この年齢区分全体の約25%を占め,最も多くなっている. 国民の疾病構造とそれに費やされる医療費の疾患別の割合が変化してきている中で,2018年「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が可決・成立した.また,日本循環器学会・日本脳卒中学会などの学会が連携して「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」を立て,脳卒中と循環器病による年齢調整死亡率を5年間で5%減少させることと,健康寿命を延伸させることを目標に打ち出し,計画実行に向けて動き出している. このような社会の動きの中,循環器看護に携わる臨床家,研究・教育者の果たしていく役割は今後ますます拡大していくと予測される.さらに医療に主軸を置く看護師としての役割だけではなく,循環器疾患の一次予防から三次予防を見据えた国民への啓発をも含むサービス提供体制の充実を,国民のニーズに応じて発展させてゆける人材が,必要な時代になってくると考えられる. 循環器病対策の先進国である米国では,循環器看護を以下のように定義している.“循環器看護とは,循環器系の健康が生涯にわたり最善となるようにする専門的な看護ケアであり,そのケアには循環器疾患の予防,発見,治療が含まれる.またその対象は,すべての年齢層の個人,家族,地域,またはある特定の健康問題をもった集団である” (American Nurses Association & American College of Cardiology Foundation, 2008). これらを受けて本書は,「循環器疾患を学ぶための基礎知識」「循環器の疾患と看護」「事例で学ぶ循環器疾患患者の看護」で構成した.事例には,循環器疾患における一次予防の重要性から児童や会社員を対象にしたポピュレーションアプローチ(16章),慢性心不全で入退院を繰り返しながら疾患とともに生活する患者を支える看護(17章),心不全の終末期における本人・家族の在宅での暮らしを支えるエンド・オブ・ライフ・ケア(18章)といった,現代社会で展開されている循環器看護の実践例をいち早く掲載する試みをした. 本書が,循環器看護の基礎知識や思考過程の基盤構築のために,活用いただけることを切に願うとともに,今後ますます複雑・多様化する看護専門職の看護基礎教育や臨床での看護人材育成を支える一助となれば幸いである. 最後に,本書の編集・監修を共に手掛けてくださった野原隆司先生,三浦英恵先生,山内英樹先生,主旨をご理解くださりご執筆いただいた先生方,関係者の皆さまに心からの感謝を記したい.執筆者・編者を代表して 岡田彩子はじめに

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