鉄欠乏性貧血1iron deciency anemia1鉄欠乏性貧血とは1疫学原因 ヘモグロビン(hemoglobin:Hb)を合成するには鉄が必要である.その鉄が不足することでヘモグロビンを合成できないために生じる貧血が鉄欠乏性貧血(iron deciency anemia:IDA)である.臨床で出会う貧血では最も頻度が高い.ただ,その多くは外来で治療が可能であるため,入院加療で看護を必要とする症例は多くない.鉄欠乏性貧血の患者に対しては,その背景に隠れている原因を考えることが非常に重要となる.年齢,性別,生活環境,食習慣などの情報が鑑別を行う上で必要となる.● 鉄の喪失:主に出血が原因である.出血については消化管出血と月経など婦人科的な出血が代表的である.背景に悪性腫瘍や子宮筋きん腫しゅなどが隠れている場合もあるため,原因の検索は重要である.月経については生理的な出血の範囲内でも鉄欠乏の原因になることに留意する.●鉄の需要の増大:成長期や妊娠・出産に伴う需要の増大が代表的である.●鉄の供給不足:極端な偏食に伴う鉄の摂取不足や,消化管手術後の吸収不良が考えられる.胃酸の低下に伴う鉄吸収障害の可能性もあり,近年はヘリコバクター・ピロリの感染に伴う胃炎の関与も示唆されている.病態 鉄がなければ全身に酸素を運ぶヘモグロビンを合成することができず,鉄欠乏性貧血となる.ここでは鉄の代謝(吸収,排泄)のしくみについて概説する. ヒトの体は鉄自体を積極的に体外へ排出する機構に乏しく,鉄は再利用されながら体内を循環している(図5.1-1).体内の鉄の総量は約3gである.それに対して鉄の1日必要量は1mgであり,これは尿,便,汗から排出される量と等しくなっている.月経がある場合は出血でさらに鉄が失われることになる. 食品に含まれる鉄には肉・魚に多く含まれるヘム鉄と,野菜・穀類に含まれる非ヘム鉄が存在し,ヘム鉄の方が鉄としての吸収効率がよいことが知られている.食事で摂取した鉄のうち,ヘム鉄であれば10~20%の量が十二指腸から空腸上部で吸収される(非ヘム鉄は5%前後である).また,赤血球の寿命は約120日であり,その後は肝臓・脾ひ臓ぞうで分解され,中に含まれる鉄は貯蔵,再利用される.この貯蔵された鉄をフェリチンという.日本では20~40歳代の女性ではほぼ3人に1人がこの貯蔵鉄フェリチンが欠乏した鉄欠乏状態であり,Hb<12g/dLの貧血を示す鉄欠乏性貧血の患者数は約20%とされている.鉄の摂取量の目安1日あたりの鉄の摂取量の目安は,最も摂取の需要が高まるとされる10歳代前半で10mg/日である2).さらに,月経のある女性の場合は約14mg/日摂取することが望ましい.しかし,平成29年度の厚生労働省の栄養調査では,男女共に鉄の摂取が不足している傾向にある.94
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