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5貧 血症候 貧血が代表的な症状となる.症状の進行に伴い味覚障害,氷ひょう食しょく症しょうや爪の変形(さじ状じょう爪そう/スプーン状爪),口角炎などが認められる.皮膚は蒼そう白はく化して,いわゆる「顔色が悪い」状態になる.また,鉄欠乏性貧血に伴って生じる固形物の嚥下困難をプランマー・ヴィンソン症候群(Plummer-Vinson Syndrome)と呼ぶ.経過など まず,貯蔵鉄であるフェリチンの低下を認める.この段階では特に症状は出現しない.その後,フェリチンが底をつくと血清中の鉄も低下を認め,血清鉄が少ない状態が続くと,Hbが低下を示すようになる.多くの場合,Hbが10g/dL以下になると徐々に自覚症状が出現するが,慢性経過で貧血になった場合は高度の貧血であってもあまり自覚症状が強く現れないこともある.2検査と診断 検査としては末梢血検査(p.44参照)を行う.Hb値の低下を認め,小球性低色素性貧血〔平均赤血球容積(MCV):小,平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC) :低〕が典型的とされる.血清鉄は低下を認め,フェリチンも低値を示し,総鉄結合能(total iron binding capacity:TIBC)は上昇を示す.フェリチンは血清鉄に先立って低下するため,潜在的な鉄欠乏の把握にも有用である. 目視では赤血球が菲ひ薄はく化し,大小不同が目立つ.慢性炎症性疾患に伴う貧血でも小球性を示し,鉄欠乏を認めることがあるため,フェリチンの確認は診断上欠かせない.3治療 不足している鉄分を補充する.一般的には経口的な鉄の内服で改善を認めるが,副作用として10%弱の症例で嘔吐,腹痛,下痢,便秘などの消化管関連症状が認められる.そもそも内服が難しい場合や,剤形の変更や服用時間の調整などでも内服困難な場合は,鉄剤の静注療法が適用される.通常,1~2カ月ほどでHbは正常化するが,正常化した後も,フェリチン値が正常化するまでは補充の継続が必要である. 長期的には食事でのアプローチも非常に重要であり,表5.1-1に挙げたような食品が鉄を多く含むとされる.なお,身体への吸収率はヘム鉄の方が非ヘム鉄よりも高い.プランマー・ヴィンソン症候群舌炎・口角炎・嚥下痛の3徴候がある.図5.1-1■鉄の代謝(吸収,排泄)のしくみ経口摂取10mg/日吸収1~2mg/日トランスフェリン*排泄 (尿, 便, 汗) 1mg/日20mg/日血清鉄500~1,000mg肝,骨髄,脾(フェリチン) 20 mg/日1,700~2,400mgヘモグロビン鉄20mg/日0.5~1.5mg/日出血(月経)貯蔵鉄*:血漿に含まれるタンパク質で,鉄イオンと結合し各所へ運ぶ.95

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