腎性急性腎不全 腎自体の障害により生じ,尿細管間質障害型,糸球体障害型,血管障害型に分類される.尿細管間質障害型 腎性急性腎不全の多くは尿細管間質障害型であり,中でも急性尿細管壊死(acute tubular necrosis:ATN)が最も重要である.ATNの原因は,前述の腎前性急性腎不全からの移行である虚血性と,内因性と外因性の腎毒性物質による腎毒性に分けられる. 内因性の腎毒性物質は,病的状態において体内で過剰となり腎障害を引き起こす.代表的な物質としてミオグロビン,ヘモグロビン,ベンス・ジョーンズタンパクなどが挙げられる.ミオグロビンは外傷などで広範囲に筋肉が損傷した場合に筋細胞から大量に放出される(圧挫症候群*).ヘモグロビンは溶血性疾患,ベンス・ジョーンズタンパクは骨髄腫が原因となる.これらは小分子であり,糸球体を濾過した後,直接,尿細管を障害する.ベンス・ジョーンズタンパクは尿細管腔で円柱を形成して尿細管を閉塞し,特徴的な病理所見から,骨髄腫腎と呼ばれる. 一方,外因性の腎毒性物質としては,造影剤,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),アミノグリコシド系の抗菌薬,シスプラチンなどの抗がん薬,パラコート(除草剤,自殺目的での飲用)などが代表的なものとして挙げられる.また,NSAIDsや抗菌薬をはじめとする薬剤は,薬剤アレルギーにより,急性尿細管間質性腎炎の原因にもなる.圧挫症候群(クラッシュシンドローム)長時間の重量物などによる筋肉の圧迫,それに伴う血流障害により筋細胞が障害を受け発症する.筋肉の挫滅というよりも,血流阻害による筋障害である.圧迫解除により,筋細胞内のミオグロビンをはじめ,クレアチンキナーゼやカリウムなどが一挙に全身に流出する(横紋筋融解症).血流再開で,血管外への急激な水分漏出によるショック,ミオグロビン血症による近位尿細管細胞障害,急性腎不全が生じる.地震大国である日本では,災害時に重要な病態,必要な知識である.*急性尿細管間質性腎炎については,8章p.103参照.急性腎障害(AKI)の定義 S t u d y 従来,急激な腎機能低下を伴う病態は急性腎不全とされ,統一した基準はなかった.また,急性腎不全には,基礎疾患がない症例に強い侵襲が加わることで急激に腎機能が低下するが,基本的には予後が悪いという意味合いは含まれていなかった.しかし近年,これまで高リスクで侵襲的で高度な治療の適応でなかった症例(超高齢,慢性腎臓病,糖尿病など)が,集中治療室などで治療を受ける機会が増加し,敗血症や多臓器不全に伴う急激な腎障害が合併した場合,生命予後が著しく悪化することが認識されるようになった.このため,これらの早期診断・治療による予後改善を目指し,AKIの概念が提唱された.国際機関であるKDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)は表のいずれか一つを満たせば,AKIと定義している.①48時間以内に,血清Crが0.3mg/dL以上上昇する②7日以内に,血清Crが基礎値*から1.5倍以上上昇する③6時間以上,尿量が0.5mL/kg/時以下が持続する*診断以前の血清Crの最低値表■KDIGOによるAKIの定義64
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