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 小児看護は,あらゆる健康レベルの子どもとその家族を対象とする.家族は,子どもが初めて属する集団であり,子どもの心身の健康,成長発達に多大な影響を及ぼしている.家族は,健康障害をもつ子どもに心理的な安定や,病と闘って生きていくエネルギーをもたらす.子どもと家族は,常にダイナミックな相互作用を展開している.子どもに生じた何らかの変化は家族全体に影響し,さらに家族に生じた変化は子どもに何らかの影響をもたらす.子どもを看護していく場合,母子に焦点が当てられる傾向がみられるが,家族を集団としてとらえケアの対象として位置付けることが重要である 4,5). 小児看護はヘルスプロモーションの理念に基づき,一人ひとりの子どもが可能な最高の健康状態を維持すること,成長発達することができるように支援すること,子どものクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を向上させていくこと,を目的とする.「健やか親子21(第2次)」では,10年後に「すべての子どもが健やかに育つ社会」となることを目指して,①切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策,②学童期・思春期から成人期に向けた保健対策,③子どもの健やかな成長を見守り育む地域づくりという三つの基盤課題と,①育てにくさを感じる親に寄り添う支援,②妊娠期からの児童虐待防止対策という重点課題を取り上げ,ヘルスプロモーションの理念に基づき,国民運動の推進を謳うたっている 6).小児看護に携わる看護者は,子どもの意見表明や意思決定を尊重しながら,家族とパートナーシップを形成し,子ども・家族・他の専門職者・地域の人々とともに,子どもの最善の利益を考え,子どもが豊かな人生を歩むことができるように支援する 1,7). 小児看護に携わる看護者は,①子どものアドボケイトとして子どもの権利を尊重し擁護すること,②子どものセルフケア能力を支援すること,③家族とパートナーシップを結び,子どもの意見を大切にしながら家族とともに子どもを支援していくこと,④子どもを中心としながら,家族や他の専門職者と,子どもの最善の利益を目指して協働すること,⑤エビデンスに基づく看護を実践することにより,子どもにとっての最善の利益を目指した看護を創造していく.(1)子どもの権利の尊重 日本が1994(平成6)年に批准した「子どもの権利条約」では,54カ条の子どもの権利が明記されており,子どもの生命・生存・発達,困難な条件からの保護と,生活や社会への参加権を含む広範な権利と最善の利益を保障している 9). 小児看護においては,「子どもの権利条約」に基づき,子どもを“社会の中で保護された存在”であると同時に,“子どもの権利を享受し行使する主体者”であるととらえ,一人の人として尊重する.年少児の場合も子どもが主体者であり,子ども自身がその権利を行使できない場合に,家族が“子どもの最善の利益”を考え,子どもに代 1小児看護の対象 2小児看護の目的ヘルスプロモーション1986年,オタワで開催されたWHO国際会議において提唱された.①住民一人ひとりが自らの決定に基づいて,健康増進や疾病の予防,さらに障害や慢性疾患をコントロールする能力を高めること,②健康を支援する環境作りを行うことを二つの柱としている.QOLの向上を最終的な目標に据え,健康はよりよい生活のための資源の一つとして位置付けていることが特徴である 8). 3子どもの最善の利益を目指した看護➡健やか親子21(第2次)については,1章4節3項p.56参照.131小児看護学で用いられる概念と理論

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