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 高校までの生物学では,解剖学や生理学という言葉が普通の教科書には出てこない.なぜだろうか. 現在の生物学は,多くの領域に分かれている.「微生物学」「遺伝学」「免疫学」「生態学」といった学問はもちろん,「動物行動学」や「社会生物学」というものまで含まれる.これらの中でも「解剖学」と「生理学」は,生物学の最も基礎的な部分で,生物の体の構造(かたち)に関する知識を担当するのが解剖学,機能(働き)について調べるのが生理学である. 看護師・保健師・助産師といった人間の健康に関わる職種では,当然のことながら,人間の体(人体)と心に関する知識が必要とされる.高校までの生物学とは異なり,人体の構造と機能に焦点を当てて学ぶ必要がある.人体の正常な構造と機能を学ぶのが,解剖学と生理学である.これに対し,病気になり,正常ではなくなった場合の構造と機能を学ぶのは「病理学」という. 高校までは,植物と動物についての一般教養的な知識を,生物学として学んだ.将来,健康科学に関する分野で仕事をするために必要な,人体に関する生物学的知識を学ぶのが,解剖学と生理学である. 最初に,解剖学は人体の構造を,生理学はその機能を対象とすると述べた.しかし構造と機能は密接に関連しており,切り離して考えるのは不可能である.どこに何があるかとか名前を覚えるだけでなく,その働きと関連させて学ぶ必要がある. 解剖学は学習の視点や方法により,下記のような分野に分かれる.①系統解剖学:同じ働きをもつ人体の各部分をまとめて機能別に学ぶ方法である.本書を含む大部分の教科書は,呼吸器系,循環器系といった機能別に分ける方法で編集されている.②局所解剖学:頭や腹部という領域に何があるかを学ぶ方法である.外科手術と関係が深く,応用解剖学とも呼ばれる.③肉眼解剖学:メスやピンセットを用い,肉眼で観察する方法をいう.④顕微鏡解剖学:光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて,体の微細構造を調べる方法をいう.組織学ともいう. 本書の解剖学は,系統解剖学の立場で,主に肉眼解剖学の知識を整理したものである. 心臓は血液を全身に送り出し,腎臓は尿を生成する.このように人体の構成要素(細胞,組織,器官,器官系)は固有の働きをもつ.この働きを機能という. 生理学では,各構成要素の機能とともに構成要素相互の作用も重要な対象となる. 例えば,気温が上昇すると,発汗量は増加し尿量は減少するが,体温はほぼ一定である.このように絶えず変化する外界の刺激に対し,体内環境を限られた一定の範囲 1解剖学,生理学とは解剖学,生理学正確には人体解剖学,人体生理学というが,普通は「人体」を省略する. 1解剖学 2生理学14

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