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内に保とうとするしくみがある.これをホメオスタシス(homeostasis,恒常性)という.このような各器官系の相互作用を理解するのも,生理学を学習する目標の一つである. 看護は「実践の科学」であるといわれる.看護の中で重要な部分を占める日常生活行動の援助を考えるとき,解剖生理学の知識は土台として活用できる.経験的によいとわかっている看護行為には,それを証明する科学的事実があるはずで,解剖生理学の知識はそれらの事実を理解する手助けを与えてくれる.ここでは「第8章 泌尿器系」で学ぶ排尿を例に考えてみよう(図1-1,図1-2). 私たちは,尿意を感じてもある程度は我慢できる.また,何かに熱中しているとき,普段なら尿意を感じても不思議でない量の尿が膀ぼう胱こうにたまっていても,尿意を感じない場合がある.これらは,排尿が大脳皮質の中枢により支配を受けているためである. 心筋梗こう塞そくの直後や手術後で,絶対安静が必要な患者の場合,ベッド上での排尿が必要となる.普段のように立って,あるいは座ったりしゃがんだりして排尿するのに比べ,寝たままで排尿するのは困難である.なぜなら仰臥位では,横おう隔かく膜まくや腹部の筋を収縮させて腹圧を高め,膀胱を圧迫してその収縮を助けることができないためである.腹部手術の後は,手術の傷(術じゅつ創そう)に痛みを感じると,腹圧を高めるのはさらに困難になる.それらに加えて,そばに他人がいると,それが気になり排尿が困難となる人もまれではない.排尿に関与するのは副交感神経であり,この神経は安静と休息の神経とも呼ばれ,他人を気にする緊張状態では作用しにくいからである. 3解剖生理学と看護S2~4内圧上昇① 膀胱内圧が上昇する副交感神経体性運動神経③ トイレに行くまで外尿道括約筋  を収縮させておく② 尿意を感じる 各神経はすべて脳神経系の中枢の支配を受ける.図1-2●尿意を感じたとき図1-1●膀胱と尿道の神経支配膀胱平滑筋内尿道口骨盤底筋群外尿道括約筋交感神経(下腹神経)副交感神経(骨盤神経)体性運動神経(陰部神経)膀胱尿道T11~L2S2~4筋には知覚神経(求心路)と運動神経(遠心路)が分布している.破線は知覚神経を示す.151看護の土台となる解剖生理学

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