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名は体を表すといいます.「解剖学」と「生理学」とに区別して各々を独立させる考えと,「解剖生理学」と一体化する考えは,根本的に異なります. 医師である私は,前者の考えに基づく教育を受けました.その際感じた疑問点は,医学部卒業直後から関わるようになった看護学生への教育の場で,より深刻な問題となりました.卒業後すぐに従事した臨床の現場で役立つ知識は,解剖学と生理学を統合したものでした.しかしどのように統合し教えればよいかがわからなかったのです.この答えを知ったのは,卒業後8年目の1980(昭和55)年に筑波大学医学専門学群(現在:医学群医学類)で教育に従事してからでした. 筑波大学医療技術短期大学部看護学科(現在:医学群看護学類)では,泌尿器科疾患についても講義を担当しました.臨床に役立つ知識の統合という視点に立って当時の看護学生用解剖生理学の教科書を見ると,隔かっ靴か搔そう痒ようのもどかしさを覚えました. その後1995(平成7)年に開設された山梨県立看護短期大学(現在:山梨県立大学看護学部)で,専任教員として専門基礎といわれる解剖生理学や病態生理学を担当することになりました.カリキュラムを検討する過程で,入手可能な看護学生用の教科書にはすべて目を通しました.以前感じたもどかしさは少し解消されましたが,満足するには至りませんでした. 理由は明白でした.看護職にある方が書かずに,基礎医学専攻者が書いているものが圧倒的に多かったからです.看護師と医師では,仕事の内容が異なります.内容が異なれば,同じ知識でも必要な度合いは異なるはずです.看護学生の解剖生理学の教科書が,医学生用教科書を簡略化したものでよいはずはありません.看護師に必要なことは,看護師でないとわかりにくいかもしれません.それではなぜ看護職にある人が解剖生理学の教科書を書かないのか.その理由を考えるようになりました. 専任教員になった後,アメリカで看護師の資格をもち看護学生に解剖生理学を教えている人の書いた教科書に出会いました.その時の印象が強烈だったことは今も覚えています.心電図なしで循環器系の説明をするといった大胆な企画にも目を見張りました.もう一つ印象に残ったのは,鮮明な多色刷りの図版でした.サイエンティフィックイラストレーターという職種があるのは知っていましたが,こんなにわかりやすく図示できるとは思ってもみなかったのです.解剖生理学の教科書にはカラーの図版が欠かせないと思い知らされました.はじめに
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