私たちは日々,さまざまな生理現象(呼吸・食事・排泄・運動・生殖など)を繰り返しながら生命を維持し生活している.必要なものは外界から取り入れて利用し,不要になったものは排泄する.この一連の営みを「栄養:nutrition」といい,持続するために取り入れる物質を「栄養素:nutrient」と呼んでいる. そして,栄養素が体内に取り入れられ,体成分に変換されることを「同化:anabolism」,反対に体成分を分解していくことを「異化:catabolism」,新しい物質と古い物質が体内で入れ替わることを「新しん陳ちん代謝:metabolism」という.これらが円滑に行われないと,日常の生活活動や免疫力は低下し,感染やストレスに対する抵抗力が減少して,病気にかかりやすくなったり,回復にも影響を及ぼしたりすることになる. 栄養素は「食品(food)」に含まれているので,毎日の「食事(diet)」をしっかりとることが,健康な身体や生活を維持するために大切である.19世紀半ば,「看護の神様」といわれたナイチンゲールは,その著書『Notes on Nursing:看護覚え書』の第6・7章で,食事や食物の重要性について言及している.2栄養とは1栄養と栄養素食品(food)栄養素を含み,食用に適したもの.食物(cooked)食品を調理や加工によって食べられる形態にしたもの.食事(diet)生命を維持するために,食物を摂取すること.または,その食物のこと. 栄養素は,糖質(glucide)・たんぱく質(protein)・脂質(lipid)・ミネラル(無機質:mineral)・ビタミン(vitamin)の五大栄養素に分類される.このうち,エネルギー源となる糖質・たんぱく質・脂質は,三大栄養素と呼ばれている. 栄養素の主な働きは,以下のように分類される(図1.2-1).①エネルギー源:糖質,たんぱく質,脂質 毎日の食事でしっかり摂る必要がある成分(エネルギー産生栄養素)②身体の構成成分:たんぱく質,ミネラル,脂質 筋肉・血管・骨格・皮膚などを作る成分③生体の代謝を調節:ビタミン,ミネラル 微量で生理機能を調節する成分(微量栄養素) 年齢・個人差などはあるが,これらの栄養素の人体における構成比率は,たんぱく質が約15~18%,脂質は約15%以上,ミネラルは約2~5%の比率である.食事の中で最も多くを占める糖質がたった0.5%しか存在しないのは,エネルギー源として常に消費されるためである(図1.2-2). また,五大栄養素以外で食品中に存在する成分として,食物繊維(dietary fiber)と水がある.食物繊維はさまざまな生活習慣病予防の観点から,生理的重要性が注目されている.水は,成人では体重の約50~60%を占めており,体内での物質の輸送・化学反応の場として重要である.2栄養素の分類炭水化物栄養学では,消化されてエネルギー源となる糖質(glucide)と,人間の消化酵素の作用を受けない食物繊維(dietary fiber)を総称して炭水化物(carbohydrate)と呼ぶ.五訂日本食品標準成分表では,食物繊維の収載に伴い,「糖質および繊維」の項目を廃止して,「炭水化物」とされた.「たんぱく質」の 名前の由来たんぱく質(protein)は,ギリシア語「第一に重要なもの」というproteiosに由来する.12
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