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(1)体液の維持 細胞周囲は体液という液体で満たされている.細胞にとってふさわしい環境を整え維持していくことは,体液の組成がほぼ一定に保持されることを意味する.このような状態はホメオスタシス(生体恒こう常じょう性)と呼ばれ,ホメオスタシスが保たれることは生存の至適条件,すなわち健康にとって必須のことである.細胞を維持する環境である体液に異常をきたすと,細胞はその機能を保てなくなるばかりか,場合によっては細胞自体が生きていけなくなることもある(1章1節「体液の異常」参照).(2)血液循環 身体に取り込んだ物質は,それらを必要とする組織や細胞へ運搬される必要があり,そこで生じた代謝産物は別の場所へと運び去られる必要がある.循環器系は物質の運び手である血液,運搬ルートである血管,そして運搬動力である心臓からなり,血管と心臓からなる閉鎖回路の中を血液が満たし,絶え間なく循環することによって種々の物質が運送される.血液循環のメインを担う血行が障害されると物質の運搬に支障をきたす(1章2節「血行障害」参照).(3)炎 症 なんらかの原因で身体に障害が起こったときに,それを修復する過程の一つに炎症がある.炎症の成立においては,局所の血液循環が増加し,その部位へ,水分や修復に関わるさまざまな物質が動員される.私たちはその結果を,局所の発ほっ赤せき,熱感,腫しゅ脹ちょう,疼とう痛つうなどとして自覚する.炎症は身体機能の回復過程には不可欠な現象であるが,さまざまな不快感覚を生じる(1章3節「炎症と修復」参照).(4)免 疫 身体は自己と非自己を見分け,非自己を排除しようとする働きをもっている.これは,生物として最小限の条件を維持していくために必要な,外部と自身との間に境をもつという機能である.外部からなんらかの侵しん襲しゅうがあったときに,それに気付き反応して外敵を排除するしくみが免疫である.免疫が十分に機能しないと,身体は外敵に侵略され,身体構造が破壊されることになる.また,自分自身を誤って非自己と認識すると,自分の防衛力をもって自分自身を攻撃してしまう.このような異常は自己免疫疾患として知られている(1章4節「免疫および免疫疾患」参照).(5)感 染 身体がほかの生命体(あるいはそれに準じるもの)に侵略される場合がある.これを感染という.感染は,細菌や真菌などの生物や,細胞構造はもたないものの,遺伝子の情報だけを持ち合わせ,ほかの生物の増殖機能に便乗して自己を増やすウイルスなどによって,細胞や身体が侵略されていく状態である.これらの感染源に侵入されそうになっても,非自己を監視する免疫システムが正常に作動していれば,そう簡単には侵入されない.またたとえ侵入できたとしても,免疫システムの監視下で感染源が活動できずにいる場合もある.しかし,免疫システムが十分に機能していなかったり,感染源が免疫システムをうまくすり抜けた場合には,感染症としてさまざまな病 2身体の働きと乱れホメオスタシス生体恒常性.種々の機能や体液,組織の化学的組成に関する身体の平衡状態(対抗する力間の釣り合い).あるいは,このような身体的平衡が維持される過程のこと.細菌,真菌,ウイルス細菌は,原核生物界に属する単細胞生物で,大きさは0.7〜数μm(マイクロメートル).真菌は,真核細胞からなる原生生物の一群.かび.ウイルスは,遺伝子DNAまたはRNAをタンパク質の殻が取り囲んでいる粒子状微生物で,細胞に感染して細胞内だけで増殖する(ナーシング・グラフィカ『臨床微生物・医動物』参照).13序論︱人間の身体における本来の働きとその乱れ1

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