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細菌が増殖する過程では,菌体成分や溶血毒,神経毒,腸管毒などの毒素が産生され,これらが,発熱や特異な症状を現す病原因子になる.莢きょう膜まく(p.37)などの宿主の食菌作用に抵抗する菌体成分で宿主の防御機能に対抗したり,線毛などの定着因子で特定の組織表面に付着・定着して感染部位を確保したり,組織を破壊する酵素を産生して感染部位を拡大するなどの働きをもつ病原因子も知られている. 細菌が血液中に入り,血液培養により一時的に検出される場合を菌血症といい,持続的に検出される状態を敗血症という.敗血症は,重篤な症状である播は種しゅ性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC,p.88参照)や多臓器不全(multiple organ failure:MOF),ショックなどにつながることがある.●ウイルス● ウイルスは,生きた細胞(真核細胞,原核細胞)に感染し,細胞内でのみ増殖することができる.その際,二分裂ではなく,細胞側の代謝のしくみを巧みに利用して,まず,ウイルスの素材となる遺伝子とタンパク質を多量に複製する.この時期の感染細胞にはウイルス粒子は認められないため暗黒期という. 次の段階では,素材を集合させてウイルス粒子を一度に多数形成する.細胞にダメージを与え,細胞から放出された成熟ウイルス粒子は,別の細胞へ侵入して感染を広げていく.このとき感染する細胞は,その表面にウイルス受容体をもつものに限られるため,特定の臓器のみが特定のウイルス感染を受けて症状を現すことになる. 細胞から放出されたウイルス粒子が血液中に存在する場合を,ウイルス血症という. ウイルスの中には,遺伝子を宿主細胞内に長期間保持し続けていて,宿主の抵抗力が低下したときにウイルス粒子を形成して症状が再燃するもの,細胞の遺伝子に働きかけてがん化を引き起こすものなどもある.前者の例として,水痘・帯状疱疹ウイルスが知覚神経節に潜伏感染し,後者の例として,ヒトパピローマウイルスが持続感染して子宮頸癌と関連する.(6)臨床微生物・医動物の基本構造に基づく薬剤感受性の違い 病原体の基本構造や増殖のしかたの違いを知ると,病態を理解できるばかりでなく,殺虫剤,抗蠕虫薬,抗原虫薬,抗真菌薬,抗菌薬(抗生物質を含む),抗ウイルス薬など,有効な薬剤がそれぞれ異なることも容易に理解できる(表1-1). 例えば,細菌細胞のみがもつ細胞壁のペプチドグリカンを標的にした薬剤は,これをもたない真菌やウイルスには無効であることや,ヒト細胞にはペプチドグリカンがないため,副作用の少ない優れた細菌感染症の治療薬となることがわかる(マイコプラズマ感染症などを除く).また,臨床検体から細菌を分離・培養して顕微鏡観察する検査において,細胞壁の構造の違いを細菌のグラム染色性により大きくグループ分けし,形態と組み合わせて菌種をある程度絞り込んで推定できると,適切な治療薬を選択する際の助けとなる.例えば,グラム陽性球菌であればペニシリン系抗生物質,グラム陰性桿菌であればアミノグリコシド系抗生物質などとなる. 真菌の細胞質膜成分のステロール(エルゴステロール)を標的にした抗真菌薬は,真菌に選択的で,ステロールを含まない細菌には働かないが,真核細胞である宿主の細胞(コレステロール含有)に対しては副作用が出やすい.ペプチドグリカン細菌の細胞壁構成成分の一つで,糖鎖がペプチド鎖で架か きょう橋され,固い網目状の構造をとって細菌細胞を取り巻き,その形(球菌・桿菌)を決めている細菌独特の物質である.そのため,ペプチドグリカンに障害が生じると細菌は溶菌してしまう.例えば,リゾチームは溶菌酵素として働き,ペニシリンは抗菌薬として作用する.→グラム染色 p.217参照.培 地微生物の培養(人工的に増殖させる)に用いる栄養を含んだ液体,またはそれを寒天などで固めたもの.培養後の増殖の状態は液体培地では濁りの程度として,固形培地ではコロニー(固まり)として観察される.ステロール脂質の成分の一つ.271微生物・医動物とは
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