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 感染症には,誰もが経験したことのある鼻かぜや食あたり,皮膚の化膿症のような軽いものから,生命に危険が及ぶ重篤なものまである.人や物の交流が迅速,頻繁に行われ,広域化した現代社会では,かつては地域の風土病に限られていた感染症が,地球上を席巻する規模で流行する危険が生じ,社会問題にまで発展することがある.さらに,未知の病原体の出現も懸念されている. 感染症をなくすことはできないが,早期に治療して症状を軽減させたり,流行を拡大させないよう予防することは可能である.そのためには,「病原体」を知り,「病原体と宿主(ヒト)との関係」を理解することが不可欠である.しかしながら,病原体は目に見えない上に多種多様であり,宿主の抵抗力もさまざまで,実際の感染症の様相は複雑である. 長年,看護微生物学の教育にあたってきた者として,病原体を,学問体系としての細菌学,ウイルス学,真菌学,寄生虫学に従って学ぶ方法では,ラテン名で羅列的に次々に登場する病原体に興味をもちにくいことを実感していた.また,病原体がどのように感染症の発症につながり,人々の健康を脅かす問題となるか,医療従事者としてどのように感染症患者に接し,感染を予防していけばよいかなどを,限られた授業時間内で提示する難しさを感じていた. そこで,本書『臨床微生物・医動物』の初版を編集した際には,感染症にかかった患者のつらい状況をイメージできるように,患者事例を最初に提示した.それから,感染症にかかっている患者の体内において,病原体とどのように闘い,排除しようとしているのかを理解し,最後に病原体の特徴,治療法や予防法などを学習する構成とした.また,目に見えない病原体をイメージしやすいように簡単な模式図を添えた.これらの工夫により,病原体をより実体として理解できるのではないかと考えた.  初版の刊行から10年が経過した.この間も,めまぐるしく変化している感染症の現状や行政対応に合わせて,本書は毎年のように修正を重ねた.幸いなことに,多くの看護学生の教科書として採用されてきた.学生や教員から寄せられた意見や質問などから,今回の改訂第3版では,①臨床微生物・医動物の一覧と,各章で学習する病原体を参照しやすく整合・提示,②1章において,病原体の基本的分類を全体として把握しやすいように,より詳しい説明を追加,③2,3章の各論では,病原体の特徴を理解した上で,具体的な患者事例を学ぶ,という並べ替え,改変等を行った.はじめに

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