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分なヘモグロビンの生産ができなくなり,鉄欠乏性貧血が生じることになる. 赤血球数は正常域であるが,赤血球の一つひとつに含まれるヘモグロビン量が低下したものを低色素性貧血という. 思春期以降閉経前の女性は,月経により定期的に出血を生じるので,その際に赤血球が失われるために鉄も体外に排出される.このため女性は基本的に男性の2倍くらいの鉄を必要とするので,鉄分が不足しがちである.若年女性などが偏食や無理なダイエットによって十分に鉄を摂取していない場合にも,鉄欠乏性貧血になることがある.また,閉経前後以降の女性の鉄欠乏性貧血には,子宮筋腫などの原因疾患があることが多い.男性の鉄欠乏性貧血は,胃潰かい瘍よう,胃癌,痔,大腸癌などの消化管出血が原因となることが多い.●症 状● 主な自覚症状は,易疲労感(疲れやすい),動悸,呼吸困難,顔色が悪いなどの貧血症状である.貧血症状のほかに鉄欠乏特有の症状として,指の爪が上向きに反り返る匙さじ状じょう爪そう(スプーン爪)がある(p.67参照).また,鉄欠乏性貧血の合併症であるプランマー-ヴィンソン症候群(Plummer-Vinson syndrome)が引き起こされる場合がある.これは舌炎,口角炎,嚥えん下げ障害を三徴とし,粘膜細胞が細胞代謝に鉄を要することから,鉄欠乏が原因で起こる.●検 査● 鉄欠乏性貧血の典型的な検査結果パターンを以下に示す.Hb(ヘモグロビン)量 → 低下Ht(ヘマトクリット)値 → 低下MCV(平均赤血球容積) → 低下MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度) → 低下Fe(血清鉄) → 低下血清フェリチン → 低下TIBC(総鉄結合能) → 上昇 血清生化学検査では,鉄が欠乏するため血清鉄が低下し,貯蔵鉄量を反映する血清フェリチンが低下する.また,総鉄結合能(total iron binding capacity;TIBC),不飽和鉄結合能(unsaturated iron binding capacity;UIBC)が上昇する.末梢血塗と沫まつ染色標本検査では,造血能が保たれていれば赤血球数が相対的に多くなり,中身が相対的に不足して小球性低色素性貧血をきたす.赤血球は中身が減って薄っぺらになる.薄っぺらになった赤血球を菲ひ薄はく赤血球という.さまざまな大きさの赤血球がみられ,これを大小不同の赤血球という.網状赤血球も減少する.●治 療● 消化管出血や過か多た月経などの原因疾患がある場合には,まず原因疾患の治療が必要となる.貧血の程度が重じゅう篤とくで,生命に危険を及ぼす状態でなければ,鉄剤投与(経口あるいは静注)を行う.経口の場合はビタミンCを同時に投与すると,鉄の吸収率がわずかに上昇する.重篤な貧血で生命に危険を及ぼす可能性がある場合は輸血が必要となる.経口鉄剤は人によっては胃腸症状などの副作用が強くみられる場合がある.網状赤血球赤血球が骨髄でつくられて末梢血に出たばかりの時期には,赤血球の細胞内にRNAが残っており,これを超生体染色すると網状に染まる.網状赤血球は骨髄での造血の程度を反映する.191血液細胞のもつ諸機能の障害

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