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 この背景には,現代社会がその変動のスピードを速めると同時に,ますます複雑化・多様化していることが指摘される. ところで,人間形成の場としての学校教育はどのような役割を果たすべきなのか. これについては多くの議論がある.恒吉僚子1)は,日米の小学校教育を比較研究した結果,表1-1のような対照を見いだし,日本の学校では「集団主義」というより「相互依存主義」の教育が行われていると指摘している. 「日本人が集団行動をとるのは,集団主義的価値をもっているからだとされるが,子細な手順や役割,小集団などにより,構造的に人々の行動が方向づけられていることによる」. しかし他方で,「〈相互依存主義〉の教育は,集団内の協力の行動規範を発達させるが,他方で個人の独創的な視点や逸脱的にみえる行動を抑制する可能性がある」. 西欧起源の「社会」が「個人の集合」を意味すると前述した.しかし,個人の集まりがすべて「社会」と呼ばれるというわけではない.「社会」が成立するのは,個人間の相互行為,あるいは行為の関係が,集合的な諸現象を固有に生成する限りにおいてである. これを,個人間のレベル,集団のレベル,社会のレベルの三つに分けて考えよう.個人間のレベルから集団レベル,そして社会のレベルになるにつれて,次第に複雑になり,そこに含まれる人数も多くなっていく. 4社会の成り立ち:個人-集団-社会項 目アメリカ日 本同調の奨励方法「外在型」同調の奨励相手の内面よりも,物事の因果関係や力関係などの,非感情的な,より外在的な要因による同調を促す.「内在型」同調の奨励他者および集団への同調の根拠を,児童の内面,主として感情に求め,自発的な同調を促す.統治パターン個人リーダーとしての教師が自ら指示を下して,児童を率いる.教師による直接統治と間接統治(児童集団による役割分担と児童相互の規制を利用)の併用.恒吉僚子.人間形成の日米比較:かくれたカリキュラム.中央公論新社,1992.表1-1●人間形成の日米比較生涯学習lifelong learning.知識・態度・技術など多様な側面での発達を図るために,個人が生涯にわたって行う学習,またはそのような学習の必要性があるという理念.1960年代中期以降にユネスコ関係者が提唱し,80年代に日本政府でも公式化された.3年B組 金八先生1979(昭和54)年10月より32年間にわたって放送された学園ドラマ.中学の国語教師である坂本金八が3年B組の生徒たちに向き合い,教室や学校で起こるさまざまな問題を体当たりで解決するという内容.多くの社会問題を取り上げつつ,ストーリーが展開された点でも注目を集めたドラマであった. 日本における相互依存主義の教育は,例えばテレビドラマの「3年B組 金八先生」に典型的にみることができる.そこではクラスとしての集団目標をもつために,クラスの生徒全員に協調行動が求められる.そのため,互いに感情移入し,相手の立場を考慮しながら合意に達することが目指され,生徒が相互に規制し合うことが奨励されている.しかしその中で問題が生じると,集団責任が問われやすいという問題がある.コムラ16

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