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 私たちは日常生活の中のさまざまな場面で,他者との相互作用を行っている.例えば,学校では教師と学生との関係,学生同士の関係が毎日繰り返される.そこでは,相互作用が反復して行われることによって,行為者相互のあいだに他方の地位の承認と役割の期待を生み,相互作用は互いに期待され規制し合うことによって様式化される.ここに,安定した持続的な相互期待の状態が成立する. 「社会関係」とは,このように,持続的に営まれる相互作用の規範化された様式を指す.例えば,学校という制度体は,学生と教師とのあいだの地位承認と役割期待の持続によって潜在的かつ安定的に成立している,ということができる. しかし普段,私たちが経験している現実の相互作用は,他者とのコミュニケーションに基づく,顕在的でより動態的な社会過程である.ドイツの社会学者ジンメル(Simmel,G.)は,社会を相互作用の集合としてとらえ,人間関係形成のプロセスがもつ流動性,動態性に着目した. 以上のような社会関係には,友好的︲敵対的な関係,親密︲疎遠な関係,協同的︲分離的関係,平等的(水平的)︲不平等的(垂直的)関係などのパターンが見いだせる. 医療施設は,医師,看護師,技師,薬剤師,患者とその家族などの関係で成り立っている.そこには,法律や当該施設の職務分掌などによる地位と役割のシステムがあるが,同時にそれらには納まり切らない,さまざまな動態的な人間関係も展開していることに注意したい. また,医療の専門化に伴い,医療施設では患者にとって理解不能な専門用語が飛び交うが,それらの専門用語が知らぬ間に患者に不安を与えている場合もある.それぞれの専門的な役割を踏まえつつ,あくまで人間としての患者と向き合う姿勢が問われている. 人間は,さまざまな規模や機能をもつ集団を形成して,集団生活を営んでいる.普通,私たちが思い浮かべる集団としては,家族・親族,近隣,サークル・クラブ,市民活動団体,宗教団体,企業,学校,保健・福祉・医療機関,自治体,国家,国際組織などが挙げられよう. 先に私たちは,持続的に営まれる相互作用の規範化された様式を「社会関係」と呼んだが,社会集団とは,継続的に相互行為し合う複数の人々の集まりを指す.そこでは,人々のあいだの相互行為や相互関係に規則性と持続性がみられ,ある程度共通の志向や共属意識が共有されている. 近代社会では高度に組織化された官僚制組織が重要な役割を果たしているが,社会集団にはさまざまな組織的集団のほかに,「群衆」「公衆」などの非組織的な集団も含まれる.群衆(crowd)が非日常的に同一場所に集合し,口伝えのパーソナルコミュニケーションで結ばれているのに対して,公衆(public)は空間的に散在し,新聞・テレビなどマス・コミュニケーションがもたらす共通関心で結ばれている. 1個人間の社会関係 2集 団地位と役割status and role.家族,職場,学校などでは,行為者相互の関係が,夫と妻,上司と部下,教師と学生などというように一般的な型として固まっており,一貫性と規則性をもつ地位システムが成立している.それぞれの地位を占める行為者は,その地位にふさわしいと期待される行動様式,すなわち役割を演じる.しかし今日,社会変動の中で,こうした地位-役割関係が揺らいでいる.ジンメル1858~1918年,ドイツの哲学者,社会学者.社会化の形式を社会学の研究対象とする形式社会学を樹立.また,現代文化の深い考察も行った.171社 会

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