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 本書は,看護学生のみなさんに社会の有り様を理解し,ビジョンをもってもらうことをねらいとして編集しました.社会のありかたを考える上で重要なことは,まずは社会の基盤を成す一人ひとりの人間の生活・暮らしをとらえることです. 看護師は,患者の生活を理解し,生活を援助することを役割としています.患者の日常的な生活を理解するためにはどうするのか.患者のこれまでの生活や暮らし,そしてどのような人々と暮らしてきたのか,どのような集団や組織に属し,どのような役割を担ってきたのか,そのことを本人はどう思ってきたのか,これからどのように暮らすこと(人生)を描いていたのか,これらを理解することが生活の理解です. そこで改めて生活とは何かについて理解を深めてほしいと思います.学生のみなさんもそれぞれ生活者であり,自分にとって生活とは何かについて振り返る機会にしてほしいと思います. また,人が人々と暮らす「家族」や「集団」,社会の一員として暮らすときに所属する「組織」,これらについて社会科学的な観点から学んでください.それを踏まえて改めて「社会的な健康」とは何かについての整理をしてみましょう.さらに「地域社会」や「グローバルな社会」とは何であるかの基本の理解を深めてほしいと思います. さらに,さまざまな科学技術の発展により,遺伝子診断や出生前診断など,これまでにはなかった「生命倫理」の問題も浮上してきています.生命倫理についても新しい知見を習得できるよう項目を設定しました. さまざまな考え方,価値観をもった人々が,暮らしの中では,共に支えあうこともありますが,さまざまな「対立」も生じます.看護師も患者や家族,あるいは住民との対立を経験します.また他職種とチームでケアを行う過程や,他機関との連携・ネットワークを図る過程で,他職種や他機関との対立を経験することもあります.看護師がさまざまな人々との接点を拡大し社会化を進展させると,支援者としての役割だけでは対応できない状況にも直面し,対立した状況の解決が求められます.多くの場合,意見の違いを表明し,お互いに向き合い,合意点を見いだし協働することが課題になります.国同士であればこれらの状況をどのようにとらえ,より平和的な国際関係を見いだすかの外交に通じます.支援の視点だけでは解決されない「対立と協働」のテーマも設定し,対立を避けるのではなく,対立の関係を協調・協働へ展開するありかたを学んでほしいと思います. 最後に,人が日常生活を過ごすなかで,何らかの異変や生活のしにくさを感じたときに,どのように他者の支援を求め行動を起こすのか,どのようにして健康増進や受療行動を起こすのか,あるいは集団の中では人々はどのように行動するのかなど,人の行動の理解や動機付けに役立つ諸理論を紹介しました.はじめに

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