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 人間は出生から死に至るまで,生涯を通して,身体的ならびに心理・社会的に継続して変化していくことが実証され,人間の発達は生涯にわたっていることが知られるようになった.また現在では,社会環境や文化の急速な変化が,個人の生活様式に多大な影響を及ぼすようになってきている.人は生物としての側面を基盤にもちつつ,社会文化的な環境の中で生きている.その普遍的な姿と,時代や文化により変わる姿,さらには一人ひとりが独自な存在として多様な側面を混在させながら生活している.このような状況を踏まえ,成人看護学の対象となる成人とは社会でどう規定されているのか,どのような体験をし,どのような役割を期待されている人々であるかを理解することは,成人看護学を学ぶために重要である. 人間は生まれてから環境との関わりの中で,乳幼児期,学童期,青年期,壮年期,老年期と変化していく.この変化は一定の方向性をもち,かつ連続的である.この変化の過程を発達ととらえる. この発達の過程の一つの段階としての成人は,さまざまな側面から定義されることが多い.まず『日本語大辞典』では,「一人前になった人,20歳以上の大人,幼い者が成長し,大人になること」とされている.生理学では,生殖能力の獲得を成人の基準としているが,初潮年齢の若年化や地域差,個人差がみられることからもわかるように,時代,文化や性別,個人により,成長の度合いはかなり異なっている.心理学的には,自分自身の生活に責任を感じる程度に応じて成人とみなされている.社会学的には,職業をもつ,配偶者をもつ,親や市民として責任ある役割を担うなど,社会が期待する役割の程度が成人の条件になり,個人差が大きい.法律上からみると,少年法では成人を「満20歳以上の者」としているが,選挙権が行使できる年齢,運転免許が取得できる年齢,飲酒が許される年齢,結婚が認められる年齢,児童手当が支給されなくなる年齢など,それぞれの法律により大人とみなされる年齢は異なり,また時代とともに変化する.社会教育法では,社会教育の対象を「主として青少年および成人」としているが,満何歳以上を成人とするか厳密には定められていない. 成人とは「大人」であることを前提とし,子ども(未成年)に対する言葉として幅広く用いられ,子どもの域を脱して成熟していく過程と理解できる.成熟とは,十分に発達した状態に成長し,または充実していく過程とされている1).また,ハリー・オーバーストリート(Overstreet,H.)は成熟を「人生とのつながり」と同じだとし,「成熟した人間は,あるレベルに到達してそこに止まっているのではない.むしろ彼は成熟しつづけている●●●●●●●●●(maturing)のである.その人生とのつながり●●●●●●●●はますます強く豊かになっていく.というのは彼の態度が,その成長を促進するようなものだからである」と述べている2).さらに,マルカム・ノールズ(Knowles,M.)は,成熟のプロセスにはいくつもの次元があり,これらの次元は達成されるべき完全な状態を示しているのではなく,成長の方向性を示したものであるとしている(図1-1) 3). 以上のようなさまざまな定義から,大人と子どもを段階的にはっきりと区分するのは難しいことがわかる.社会が複雑化した現代,成人を規定する場合は,そこにみら1「成人」の定義16

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