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 人の一生は,大きく胎児期,小児期,青年期,成人期,老年期に分けられる.老年期は何歳からと決めることは困難であるが,国勢調査に基づいて区分すると,65歳以上が老年となる.また国の施策をみると,高齢者保健事業では,特定健康診査・特定保健指導は40~74歳,医療給付は75歳以上(65歳以上で寝たきり等の者を含む),介護保険の保険給付は65歳以上の要介護状態および要支援状態(特定疾しっ病ぺいの場合には40歳以上65歳未満を含む,➡p.105参照)の人となっている. このように,高齢者を概念づける場合には,ある年齢を基準として決める暦こよみ年齢による区分と,心身の機能による区分がある.機能による区分とは,標準的な成人の機能に対して,低下した状態にある人を高齢者とすることである.しかし,この機能についても,何がどの程度低下した場合に高齢者とするかなど,基準が難しい. そして,生活習慣病や閉経による影響といった面から健康問題を考えていく必要がある場合には,50歳以上あるいは40代をも対象としながら加齢による健康問題を考えなければならない. 一方で,高齢者の疾病経過や治ち癒ゆ過程などをみると,60代の人の体の反応は成人期と大きな違いはなく,75歳以上になってはじめて身体機能の変化が大きくなってくることから,75歳以上を対象として高齢者の健康問題を論じる場合も少なくない.さらに,100歳以上の高齢者が8万人超(令和2年9月15日現在,厚生労働省)となった現在では,65歳以上の全員を老年期とまとめて論じることは,さらに難しくなっている.そのため,老年期を大きく分けて,65〜74歳までを前期高齢者(准高齢者),75歳以上を後期高齢者(高齢者)とし,高齢者の定義を75歳以上としようという提言もなされている.また,65歳以上をyoung-old,75歳以上をmiddle-old,85歳以上をold-oldとし,100歳以上をeエリートlite-oldと呼ぶ場合もある. このように考えていくと,老年看護の対象を論じる見地があいまいになってしまう.そこで本書では,暦年齢では一概に決めることはできないことを知った上で,一般的には65歳以上を高齢者として,述べていくこととする. 加齢(aging)とは,年を重ねていくことを意味する.「加齢」という言葉の意味は,年を重ねていくことで起こってくるすべてを含んでいるので,この言葉に衰退というようなイメージはない.良いことも悪いこともすべてを含んでいることになる.それに対し,老化(senescence)には,成熟した後に機能が低下していくという,衰退の意味合いが含まれている. 人は年を重ねることで,身体機能については低下する面もあるが,心理的な側面や社会的な側面については,加齢とともに充実し,成熟度が増し,老年期は人生の統合 1高齢者とは 1ライフサイクルからみた高齢者の理解 2加齢と老化高齢者の定義に関する 議論2018年2月に閣議決定された高齢社会大綱では,「65歳以上を一律に“高齢者”とみるのは現実的ではない.年齢による画一化を見直し,エイジレス社会を目指す」と記されている.このような見方は,主に身体機能からの見直しであるが,高齢者の定義を変えることは,社会保障などの側面から社会全体への影響も大きいため,慎重に検討されなければならない.12

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