高齢化が進む中,老年看護学は1990(平成2)年に成人看護学から独立して教育されるようになりました.日本で急速に高齢化が進んだのは1970(昭和45)年ごろからですので,20年近く遅れての教育開始となります.その後も,介護福祉士の誕生,介護保険制度の制定など,社会情勢はめまぐるしく変化しました.このような変化を背景に老年看護教育への期待は高まり,「高齢者にいかに質の高いケアが提供できるか」を課題とする老年看護学は,看護教育の中でも重要な位置を占めてきました.1996(平成8)年の第三次カリキュラム改正では,講義だけでなく実習についても成人看護学から独立して教育されるようになりました.さらに,2008(平成20)年の第四次カリキュラム改正では,これまで一つの分野とされていた専門分野が専門分野Ⅰ(基礎看護学)と,専門分野Ⅱ(対象者の発達段階に応じた小児看護学,成人看護学,老年看護学など),統合分野の三つに分けられました.これを受けて2011(平成23)年度からの教育に向けて改訂してきました. その後,少子高齢化はさらに進み,老年看護学の果たす役割はますます大きくなってきています. そもそも老年看護学は,学生のみならず教員も自身で体験していない年齢の人を対象とした看護を教え学ばなければならない領域です.そのため,高齢者自身からの学びを大切にしたいと考え,高齢者と真摯に向き合うことを大事にしてきました.1995(平成7)年に日本老年看護学会が発足して25年がたち,研究成果も多く示されるようになってきました.老年看護教育においては,それらによって得られたデータはもちろんのこと,学際性を重要視し,老年医学,老年心理学,老年社会学,老年歯科学,基礎老化学,建築学などの成果あるいはデータをも活用して教育を進めています. 改訂第6版ではさらに,社会資源や地域包括ケアの内容を充実させ,これからの老年看護に求められる多面的で柔軟な視点を含めた内容にブラッシュアップしました. ナーシング・グラフィカ「老年看護学」は2巻で構成されています.本書『老年看護学①高齢者の健康と障害』では,老年期の理解,高齢者看護の基本,ヘルスプロモーション,高齢者の日常生活の実際についての考え方を中心に述べました.また,それらの理解を深められるように,高齢者の疑似体験や高齢者へのインタビューといった演習に活用できる内容を盛り込んでいます.『老年看護はじめに
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