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な病んだ状態に落ち着いてしまうことを,日常生活上に現れている障害ととらえる.これは,抱えているストレスがその人自身の力で解決できる閾いき値ちを超え,他者の力を借りなければ解決できなくなっている状態といえる.つまり精神障害は,私たちが日常的に経験する多くの悩みや葛藤の延長線上にあるととらえられる. 精神障害が,その人が歩んでいる人生のプロセスとともにあるならば,表に現れた障害や症状だけに目を留めるのではなく,何がこころを病むきっかけになったのか,生活上のイベントやその人のストレスのとらえ方など,そこに至ったプロセスを理解する必要がある.表に現れた症状だけを見ていては,不可解な感じを抱いたり,時には恐怖を感じたりすることになる. そのような症状の背景には,多くの抱えきれない葛藤が存在する.精神障害者が,これまでの成長過程の中でどのような生活体験を積み重ねてきたのか,どのような生き方をしてきたのか,またその時々にどのような人々と出会ってきたのかなど,その人に関わるすべてのことを客観的に観察する必要がある.それらすべてのことが援助の対象となるからである.表1-1は,武井による精神看護学の基本的な考え方を示したものであるが,人生のプロセスと精神障害の関連を考える一つの基盤となるものである. 精神障害者の多くは,症状そのものより,それに伴う障害のほうが問題になる.つまり精神疾患患者としてよりも,精神障害者としてとらえたほうが,より現実的であることが多い. しかし社会の中では,精神障害を一つの経験としてとらえ,生活や人生を形づくる一つの要素であると広く受け止められるまでには至っていない.精神障害も,その人にとっては一つの生活体験であり,その後の人生に影響を与える出来事の一つである.その人が歩んできた人生の中で,人と人との関わりが精神障害のきっかけになったとすれば,人と人との関わりの中で癒やされなければならないのではないだろうか.ま 3精神看護学の視点から 4「精神障害者」としてとらえる■ 人はさまざまな危機に遭遇し,乗り越えながら生きていく.危機に対しては人はさまざまな反応を示すが,精神障害は一つの反応の仕方である.したがって,精神障害は特殊なものではない.■ 人は精神障害の有無にかかわらず,自己実現を目指してその人らしく生きていく権利があり,すべての人が変化と成長の可能性をもっている.その過程を援助するのが精神看護の役割である.■ 人がその人らしく個性をもって生きるには,人と人とのつながりが不可欠である.■ 人の自己実現を妨げるのは,その人の問題だけではなく,その人をとりまく家族,友人,地域社会の問題である.したがって,精神看護の対象は,個人だけでなく,家族,集団,組織,地域社会をも含む.■ 障害や問題を抱えた人を援助する人が,かならずしも障害や問題を抱えていないわけではなく,自らの問題にも直面せざるをえないものである.武井麻子.精神看護学ノート.第2版.医学書院,2005,p.5.表1-1●精神看護学の基本的な考え方14

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