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 日本には約320万人の精神障害者が存在するといわれています.その大半が社会で暮らしているのですが,普段私たちはそれに気付きません.家族やよほど親しい友人でもなければ,おそらく精神障害者がどのような人々なのかを知る機会がないまま,マスコミの精神障害者による事件報道をうのみにしてしまっているのではないでしょうか.「知らない」ということは,正しい理解を阻み,ゆがんだイメージを作り出すことにつながります.またその知識不足や間違った認識は,社会の中に根拠のない偏見に苦しむ人々を生み出してしまうことを,私たちはハンセン病の歴史などで知ったはずです.この本は,精神障害者についての正しい理解を深める一助になればと願って編集しました. 授業ではぴんとこなくても,臨地実習をとおして直接患者に関わってみれば,「どこが病気なのかわからない」とか,「接してみたら怖くなかった.ただ知らなかったから怖かっただけだと思う」といった感想を学生からよく聞きます.実際に関わってみれば,表に現れている多様な精神症状の背景には,解決できないまま抱え続けてきた葛藤や傷ついた体験があり,精神障害ゆえにスティグマ(stigma)を負って生きることを強いられた人たちの人生があるということを知ることができます.そして,精神障害者の抱える葛藤や傷つき体験は,自分自身の体験と,時には重なり合うことにも気付くのです.こうして初めて,心を病むことの意味を真剣に考え始めるようになるのです. このような実習での経験をより意味あるものにするために,精神保健に関わる問題をこれまでのように疾患の枠組みからだけでとらえるのではなく,もっと広く,人間の生の営みという視点から,誰にでも起こり得る出来事としてとらえられるような理論的な裏づけに立って,学習内容を検討してきました.特に人間関係という視点は,病気の成り立ちを理解する上でも,傷ついた心がいやされるためにも,重要であると考えました.そして,人間関係のありようを深く理解するための理論として,対象関係論のいくつかの考え方を紹介しました.できれば精神看護実習の前に,患者さんたちの日常生活や具体的な症状がイメージできるようにと,事例をたくさん挿入しました.このテキストが知識と実習経験とをつなぎ,患者理解・自己理解の助けになればと願っています.また,精神科に限らず看護自体が,まさに人間関係の上に成り立っているということも理解していただけると思います.北里大学看護学部教授出口禎子はじめに●精神科看護を学ぶにあたって〈動画〉コンテンツが見られます(p.2参照)

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