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 フィジカルアセスメント(physical assessment)とは,身体の健康上の問題を明らかにするために,全身の状態を系統別に査定することである.人の全体を身体的,心理的,社会的に査定するヘルスアセスメントの中で,フィジカルアセスメントは,主に身体の査定を行う.ただし,身体の査定とはいえ,身体への心理的・社会的影響という視点は,常に考慮されねばならない. フィジカルアセスメントには,健康歴を聴取し,身体を直接観察し診察するプロセスがあり,そこではフィジカルイグザミネーション(physical examination)の技法が用いられる.その技法には,質問する(問診),視覚的に身体をチェックする(視診),手で触れたり聴診器を用いたりして身体をチェックする(触診,打診,聴診)などが含まれる. フィジカルアセスメントは,情報を収集・アセスメントし,患者の健康上の問題を特定して,必要な看護を実施・評価するという看護過程の中で,看護師が患者の身体情報をより早くキャッチするのに役立ち,早期の必要な対処に導くものである. フィジカルアセスメントの能力は,身体に関する知識,特に解剖生理学の知識に大きく依存する.患者の身体に起こった問題について質問(問診)するとき,また,検査データが基準範囲内か,あるいは基準範囲から逸脱しているかを判断するとき,その根拠を解剖生理学の知識に求めるからである.例えば,検査の対象には,代謝産物,臓器の組織,血液,生体の発する電気信号などがある.このような対象物の正常時の状態と,異常状態で見られる正常時からの逸脱の度合いを,基準範囲内の検査値,逸脱を表す検査値によって理解しなければならない.逸脱とその度合いがわかるには,代謝産物,臓器,血液,電気信号などの正常時の構成,機能,形状を知っている必要がある.このように検査に用いられる対象物一つにしても,解剖生理学の基礎的な知識なくしては,身体を見ることと関係づけることができない. 授業では,フィジカルアセスメントの学習は,解剖生理学の履修と同時に進行することもあり,相互に,それぞれの科目の教科書を併用すると補完する学びとなる.このように,フィジカルアセスメントは他の関連する科目と共同して学習すると,より効果を得やすいと考える. そこで本書では,3章「系統別のアセスメント」で,はじめにその領域に必要な解剖生理学の知識を復習として概説する.また6章では,看護過程の展開において,アセスメントの枠組みとして用いられることの多い「ヘンダーソンの基本的ニードに基づく14の構成要素」と「ゴードンの11の機能的健康パターン」を用いて,ヘルスアセスメントの要点を構造的に表す.系統別アセスメントではフィジカルアセスメントに焦点を当てるが,11の機能的健康パターンは,「自己知覚/自己概念」「役割/関係」 3フィジカルアセスメントとは何か 1ヘルスアセスメントにおけるフィジカルアセスメント→看護過程は,ナーシング・グラフィカ『看護学概論』8章参照. 2解剖生理学の知識がベースになるフィジカルアセスメントヘンダーソンの14の構成要素人間の基本的ニードに基づく14の構成要素として,①正常な呼吸,②適切な飲食,③老廃物の排泄,④体を動かし,姿勢を維持する,⑤睡眠と休息,⑥衣類の選択と着脱,⑦正常な体温の保持,⑧体の清潔の保持と身だしなみ,⑨環境内の危険因子を避ける,⑩他者とのコミュニケーションをとり,自己の意思・気持ち・欲求・ニーズなどを伝える,⑪自己の信仰に基づく生活,⑫達成感のある仕事に就く,⑬レクリエーション活動に参加する,⑭学習を満たす,を挙げている(ただし研究者によって構成要素の言い方は微妙に異なる).14

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