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ている必要がある.それを前提に,必要な水分や栄養を充足させるために,この食事で少なくともどの程度摂取してもらうかを考える. さらに,高齢の人が床上で食事をするのであれば,肺炎など生命を脅かす危険がある誤嚥の問題も,当然考えなければならない.姿勢を整えるのはもちろんのこと,会話をしながら楽しく食事をしてもらう必要はあっても,嚥下するタイミングには声をかけないよう配慮する.また,誤嚥した場合にどこに詰まるかを予測して,食後にその部位を聴診し,呼吸音を確認する必要もある. こうしたことは,「高齢者に対する食事ケア」というある程度普遍化された知識・技術であり,それに基づいた実践は,まさに根拠に基づいた看護実践といえる. しかし,それで十分な看護実践といえるだろうか.本来であれば食事は,座った状態で自分のペースで好きな物を好きな順に,自分の口に合った量を取りながら食べるものである.ベッド上で他人の介助で食べさせてもらうという現実をこの患者がどう思っているのか,その苦痛を理解する態度から食事ケアは始まっている.そして,この患者にとって食事にどのような意味があるのかに関心を寄せ,その意味に近い環境を整え,食事をしてもらう必要がある. 例えば,この「おかず」(副食)が,患者の人生の中で何かの思いと重なることがあるのか,普段の生活では誰と食卓を囲み,どんな話をしながら食事をしていたのか……など,その患者だけがもつ「食事の意味」に関心を寄せるのである. 「食事」とは「人を良くする事」と書かれるように,「食事ケア」という看護実践は身体的に必要な水分量や栄養を摂取するという側面も重要であるが,それ以上にその人をより良くする,つまり身体的にだけでなく心の安寧をももたらす手立てとしての看護実践,という態度が重要なのである. このように,患者の価値観に根ざした食事ケアという看護実践でなければ,本当の意味での看護実践とはいえない.この態度こそまさに患者の尊厳を大切にするという看護実践の根幹,つまり看護者としての倫理的態度であるといえる. ここまで,看護実践の構成要素という側面から「看護技術」を考えてきた.次に「技術」という側面から「看護技術」を考えてみたい. そもそも「技術」には,どういった意味があるのだろうか.辞書には「物事をたくみに行うわざ.技巧.技芸.科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し,人間生活に利用するわざ」1)と記されている.医療に置き換えるなら,「科学を臨床に応用して与薬や手術を行い,患者の健康回復に利用するわざ」ということになるかもしれない.一方,看護技術の定義は,「看護の対象である人間への働きかけであり,その 2サイエンスとアートからなる技術図1-2●食事ケアの場面151看護技術とは何か
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