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 精神機能の病的な状態が精神疾患である.米国精神医学会(APA)の診断基準であるDSM−5によれば,「精神疾患とは,精神機能の基盤となる心理学的,生物学的,または発達過程の機能不全を反映する個人の認知,情動制御,または行動における臨床的に意味のある障害によって特徴づけられる症候群」と定義される. 精神疾患に罹患した人には,精神症状が見いだされる.精神機能は,意識,注意や知覚,記憶や知的能力(知能),思考,感情,意思や意欲などの要素から成っているため,精神症状は,意識の障害,注意の障害,記憶の障害,思考の障害,感情の障害,意欲の障害などとして現れる(図1.1-1). 人間は社会環境の中で生きており,精神機能が病的になると,程度の差はあれ,日常的な行動や対人関係に変化や支障をきたす.したがって,精神症状は,本人による自己の精神内界に関する説明,本人や家族等からの日常生活の報告,面接時の表情,態度,身なりの観察などから総合的に確認される.(1)意識の障害 意識は精神活動の前提であり,舞台を照らす照明に例えられる.意識が障害されると,覚醒レベルが低下する(意識混濁).その程度を示すために,日本ではジャパン・コーマ・スケール(JCS:Japan Coma Scale,3-3-9度方式)が用いられる(表1.1-1). 1精神疾患総論 1精神疾患と精神症状精神保健福祉法における精神障害者の定義「この法律で『精神障害者』とは,統合失調症,精神作用物質による急性中毒又はその依存症,知的障害,精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」(第5条).精神病精神疾患と同様の意味で精神病という言葉が使われることがある.精神病の明確な定義はなく,一般に幻覚や妄想があることや極端な興奮など,通常からの逸脱が大きい症状を有する精神疾患を指すことが多いが,必ずしも回復困難であることを意味するものではない.「産後精神病」「アルコール精神病」「術後精神病」などと,以前からの慣用で使われている場合もある. 2主な精神症状図1.1-1●精神機能の要素精神機能意 識注 意知 覚記 憶知的能力思 考感 情意志・意欲精神症状は,これらの機能の障害として現れる.14

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