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 意識障害があるときは,開眼しても見当識や計算力などの機能低下がみられる.また,意識障害からの回復後,その間の出来事を記憶していないことが多い.意識混濁は軽度だが,意識の狭きょう窄さくや変容をきたし,異常な言動が生じる場合がある.せん妄やもうろう状態がその代表的なものである.(2)注意の障害 注意とは,意識を内外の状況に向ける機能である.その障害には集中困難(注意散乱),あるいは逆に転導困難(固着)などの状態がある.(3)知覚の障害 知覚は,外界から取り入れた感覚情報を認識する機能である.十分な外部情報がないために誤った知覚が生じ,見間違えたり聞き間違えたりすることを錯覚という.それに対し,その場にないものをあるように知覚し,そうだと思い込んだものが間違いであると訂正ができない知覚の誤りを幻覚という.幻覚は,五感すべての領域で生じる(幻視,幻聴,幻触,幻味,幻嗅).その他にも知覚の障害には,過敏や鈍どん麻ま,ゆがみ(知覚変容.外界からの刺激がないのに刺激を感じる,外界からの刺激を別の刺激に感じる),生き生きとした感じの喪失(現実感喪失)などがある.(4)記憶の障害 記憶は,情報の記銘,保持,再認,再生という要素からなる機能である.記銘力が障害されると,新しいことが覚えられなくなる.一定期間や一定の事柄に対する記憶を失うことを健忘という.意識障害のあと,発症の少し前にさかのぼって健忘が生じることがある(逆向健忘).また,自分の名前や年齢,家族など来歴に関する記憶が障害されるものを全生活史健忘という.(5)知能(知的能力)の障害 知能は,記憶,計算,言語などを駆使し,状況理解と問題解決を行うための総合的能力である.その程度は知能指数(IQ)によって示される.測定法としては,ウェクスラー成人用知能検査法(WAIS-Ⅲ;ウェイス・スリー),田中・ビネー式知能検査Ⅴ(ファイブ)などが知られる.知能障害の重症度は,重度(IQ25未満),中等度(IQ25〜50),軽度(IQ50〜70)などと分類される.知能の障害は,発達段階で明らかになる知的障害と,獲得能力が病的に低下した認知症に分けられる.ガンザー症候群にみられる的はずし応答は真の知能障害とは考えられない.(6)思考の障害 思考の障害は,思路の障害,思考内容の異常,思考の制御困難に分けられる.思路の障害には,迂う遠えん(回りくどい),散乱(あちこち飛ぶ),保続(ある話題から離れられない),途絶(突然途切れる),制止(進め方が非常に遅い),観念奔ほん逸いつ(考えが次々せん妄,もうろう状態せん妄は,意識の混濁の上に意識の変容をきたし,注意が障害されるとともに,幻視などの幻覚やまとまりのない興奮状態などの症状が加わった状態.もうろう状態は,意識の混濁は軽いが,著しい意識野の狭窄をきたし,外界の認知はある程度できるが,誤認や錯覚がみられ,てんかん発作の後のように,何かに気を取られたように場にそぐわない行動をする状態.的はずし応答と ガンザー症候群たとえば1+1を即座に3と答えるなど,簡単な質問も少し間違えて回答するのが的はずし応答である.ガンザー症候群は拘禁者等にみられる反応性の精神障害に分類される.Ⅰ群(1桁).刺激をしなくても覚醒している状態 1.だいたい清明だが,今一つはっきりしない 2.時・人・場所がわからない(見当識障害) 3.名前,生年月日が言えないⅡ群(2桁).刺激により覚醒する状態 10.呼びかけで容易に開眼する 20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する 30. 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと,かろうじて開眼するⅢ群(3桁).刺激しても覚醒しない状態 100.払いのける動作をする 200. 少し手足を動かしたり,顔をしかめる(除脳硬直を含む) 300.全く動かない(付)R:不穏I:糞尿失禁A:自発性喪失(表記例)30︲R,3︲I,20︲RI太田富雄ほか.意識障害の新しい分類法試案:数量的表現(Ⅲ群3段階方式)の可能性について.脳神経外科.1974,2(9),p.623-627より一部表現を変更し掲載表1.1-1●ジャパン・コーマ・スケール(JCS)151精神症状と精神疾患 1 精神疾患総論

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