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に湧いてきて飛躍する)などがある. 思考内容の異常の代表的なものが妄想である.原則として,妄想をもつ人はその内容を訂正できない.その発生が了解できない妄想(一次妄想ないし真性妄想)と,その人の感情状態などからみて了解可能な妄想(二次妄想)に区別される. 妄想はその内容から,被害的内容,微小的内容,誇大的内容をもつものに大別され,さらにそれぞれの中で,注察妄想,罪ざい業ごう妄想,血統妄想などと細かく命名されている.妄想があっても二重見当識を獲得し,地域生活を送っている人もいる. 思考の制御困難の中には,強迫観念(非合理であるとわかっているのにある考えが繰り返し浮かんで追い払えない),自生思考(自分の考えがひとりでに浮かび上がってくるように感じる),作為思考(自分の考えが外部の力で操られていると感じる)などがある.(7)感情の障害 感情は,快・不快,安心・不安,喜怒哀楽などを基本的要素とする精神機能である.例えば,不安は誰にでもみられる感情だが,その程度が強く,生活に支障をきたすような場合は病的となる.また,ささいな刺激で感情を爆発させるような状態を,「易刺激性が高い」という.統合失調症の際は,感情の平板化,場にそぐわない感情,両価性などの障害がみられる.その他,器質性精神障害の際には感情失禁(情動失禁)や多幸がみられる.(8)意志や意欲の障害 意志や意欲は,自らの欲求に従って行動し,かつその行動を適切に制御する精神機能である.例えば,意志や意欲が強すぎる場合には,活動性の亢進や行為促そく迫はく(躁状態)などの状態となり,逆に弱すぎると活動性低下,無為・自閉(統合失調症)や制止(うつ病)と表現される状態となる.無為とは,意志や欲動が病的に欠如して,周囲への関心や感情的な反応が乏しくなることをいう.(9)自我意識の障害 自我意識とは,自我の単一性,同一性,境界性,能動性に関する意識を指す.統合失調症では,自我意識が障害され,自分が二人存在する(二重身)とか,自分の思考,感情および行動が操られている(作為体験)などと感じる.このほか,思考や感情に伴う自己所属感が乏しくなることがある(離人症状).(10)身体的訴えや行動面に現れる精神症状 失語,失認,失行などは,特定部位の脳損傷に引き続いて発症するものである.一方,麻痺などの機能障害の訴えがあっても,身体的基盤が見いだされない場合もある.例として,失立,失歩,失声,手足の運動麻痺などがある.また,病的不安が発作的に生じる場合(不安発作),動悸や発汗,呼吸困難感などの身体症状として訴えられることが少なくない. 緊張病症候群では,意味不明の激しい興奮や,突発的な衝動行為がみられる興奮状態と,常同症やカタレプシー(強硬症),相手の行動をまねする反響症状がみられる昏迷状態があり,時として交互に出現する. 過食や拒食などの摂食行動の異常,性に関する逸脱行動(性犯罪,性的露出),抜一次妄想,二次妄想一次妄想の例として,統合失調症の際の妄想気分,妄想知覚,妄想着想がある.妄想気分は,何か不気味なことが起こりそうだという不安・恐怖感を伴う独特の気分.妄想知覚は,知覚に妄想的な意味づけをするもの.妄想着想は,突然ある考えが浮かび,それが事実であると確信するもの.二次妄想の例としては,うつ病の際の微小妄想や躁病の際の誇大妄想などがある.二重見当識自らの妄想体験を「非常識だが現実」などと称してその実在を信じる一方で,日常生活の場面では妄想に左右されずに行動できる状態を指す.両価性アンビバレンツ.特定の対象に,愛情と憎しみなどの相反する感情や態度を同時に向ける状態.統合失調症や神経症で時に認められる.失語 失認 失行失語は,意思を思い通り伝えられない運動失語と,言葉の意味を理解できなくなる感覚失語に大別される.失認は,知覚機能には異常がないにもかかわらず,知覚の対象を正しく認識できない状態.失行は,麻痺や運動機能の障害がないにもかかわらず,自分の思い通りの行動ができない状態.いずれも脳の局在性の障害によって生じる.16

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