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常同症目的や有効性がなく,周囲の状況にも適応していない姿勢の維持(常同姿勢),一定の言語の反復(常同言語)や特定の運動の反復(常同運動)などをいう.統合失調症において緊張型や経過の長い患者にみられるほか,知的障害や脳器質性障害,認知症などでもみられることがある.毛癖,特定の依存性物質への依存,ギャンブルや買い物への依存がみられる場合,背景には行動制御の障害があると考えられる.薬物の過量服用や自傷行為なども,不安定な精神機能の結果として生じた逸脱行動(行動化)と考えられる. 同じ種類の精神症状でも,成因が異なることがある.例えば,記憶障害のうち,健忘症候群(コルサコフ症候群)はヘルペス脳炎などの器質性疾患の結果生じる場合があるのに対し,全生活史健忘は強いストレス体験の後などに生じる心因性の症状である.この例に限らず,同じように見える精神症状でも,その背景は器質性と心因性の両方の場合がありうる.その見立てを誤ると,生命の危機に陥ることもある.事例 急に暴れ出し統合失調症と考えられた人 Aさん(50歳)は,ある日飲酒後,就寝した.午後11時ごろになって急に起き上がり,見境なく周りのものを壊し始めた.驚いた家族が声をかけても,聞く耳をもたなかった.やむを得ず,押さえつけて救急病院に連れてきた.当初は統合失調症による興奮状態の可能性が疑われたが,実際は,くも膜下出血による意識障害(せん妄)であった. また,身体的な訴えを心因性のものと誤って解釈してしまう場合もある.事例 介護福祉士が施設不適応と考えた新入所者 特別養護老人ホームに入所後間もないBさん(80歳)は,不機嫌なことが多く,他の入所者とも交わろうとしなかった.ある日の昼食後,介護福祉士が声をかけたところ,急に今食べた食事をその人に向けて吐き出した.その行為がわざとのように見えたので,介護福祉士は,施設不適応による心因性嘔吐と考えた.しかし,検査により,進行胃癌による通過障害があることが判明した. このような見極め(診断)をするのは医師の仕事であるが,看護師も,先入観を排して患者の話に耳を傾け,丁寧に身体の状況の観察を行うことを心がける必要がある.●精神疾患の診断● 精神疾患では,通常,複数の精神症状が一定の組み合わせで出現する.その例として,幻覚妄想状態,緊張病状態,抑うつ状態,躁状態,不安緊張状態,神経衰弱状態などが挙げられる.これらの状態像の背景にある本態は,心因性のことも器質性のこともありうるので,治療やケアは本態を見極めた上で行う必要がある.この見極めをつける行為が診断であり,その結果,罹患している精神疾患名が特定される. 身体疾患は,病因,病理,症状,臨床検査所見,経過,予後などによって,他とは明確に区別されることが多いが,精神疾患の中には,その病因が明らかでなく,臨床 3精神症状を見る視点健忘症候群 (コルサコフ症候群)意識障害や知能障害はない状態下で,強い記銘障害,健忘,失見当識,作話などの症状がみられる.患者はほとんど新しいことを覚えられず,作話によってつじつまを合わせているように見える. 4精神疾患の診断と分類三大原因別分類従来行われてきた精神疾患の便宜的分類法.脳の生物学的機能異常が想定されるものの,まだ十分に解明されていない内因性精神疾患(統合失調症やうつ病),明らかな脳の病変(器質性)や身体疾患の影響により生じた外因性精神疾患(認知症,頭部外傷,脳炎,アルコール使用,代謝疾患などによる精神症状),性格や環境の複雑な絡み合いの中で生じた心的葛藤などが契機となる心因性精神疾患(神経症が代表的)の三つに大別する.171精神症状と精神疾患 1 精神疾患総論

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