308014913
3/16

 日本では複雑な社会情勢や時代の変化を反映して,精神障害の分類やとらえ方,疾患の種類も徐々に変化しています.最近では強迫神経症などの不安障害やパーソナリティ障害,摂食障害,心的外傷後ストレス障害の増加が注目されています.また,看護の面からはメンタルヘルスに関わる重要な問題として,登校拒否や家庭内暴力,虐待,買い物依存なども見逃すことのできない社会現象でしょう. 時代とともに移り変わる精神病性の変化に伴って,治療方法も模索され続けてきました.薬物療法,精神療法,社会療法など多くの種類の治療方法があることも精神医療の特徴の一つですが,薬物療法か精神療法かどちらか一方だけでは限界があると考えられ,最近ではさまざまな治療法を組み合わせて効果的な治療が行われています.同時に,私たち看護者にもますます精神看護の専門性が問われるようになっています. このような精神医療の状況のなかで,看護にはどのような役割が求められているのでしょうか.心を病んだ人を前にしてその人を理解する過程そのものが看護であるといえます.そのための有効な手段の一つとして,日常生活行動の援助技術,傾聴や共感といったコミュニケーション技術などがあるといえるでしょう.これらの技術をいつどのような方法で活用するかという判断には,それぞれの看護者の考え方や価値観や感性が深く関わっています.またそれが患者と看護者の人間関係に影響を与えている場合もあります.このように,患者と看護者が関わり合う場はすべてケアとつながり,患者−看護者間における力動関係は,治療とも深く関連しているといえます. 本書は,患者との出会いから始まる人間関係の確立とその関係性の発展を何よりも重視して編集しました.専門的知識や援助技術はもちろんのこと,日常生活の身近なところで関わる看護の本来的な役割と機能にいま一度立ち戻り,身体的ケアの場はもちろん,作業やプログラム活動,散歩や行事やゲームなどのレクリエーション,買い物など,日常生活のあらゆる場が,私たちの働きかけ次第で,治療の場・学習のきっかけになりうるということの理解を深めてほしいと考えました.このような立場からこの書の内容が吟味され,日々看護を行っている臨床現場の看護師たちが執筆に加わりました. 最後に,私たち援助者自身もまた,ケアの場のダイナミクスを通して,日々新たな学習をする看護者でありたいものです.北里大学看護学部教授出口禎子はじめに●精神科看護を学ぶにあたって〈動画〉コンテンツが見られます(p.2参照)

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る